山本正典プロフィール|コトリ会議を率いる劇作家・演出家
山本正典さんは、関西を拠点に活動する劇作家・演出家です。劇団コトリ会議の旗揚げメンバーとして、SFや民話を思わせる設定のなかに、現代を生きる人の小さな違和感や、他者とわかり合えない切なさを描いてきました。軽妙な言葉のやり取りと、静かな空白を生かした演出が共存している点が大きな特徴です。
2025年には『おかえりなさせませんなさい』が第69回岸田國士戯曲賞の最終候補に選ばれ、第3回関西えんげき大賞では最優秀作品賞と観客投票ナンバーワン賞を受賞しました。2026年にはコトリ会議の新作『この上のない下水筒』が大阪・東京で上演されるなど、現在も作品発表を続けています。本記事では、公開されている公式情報と劇場・公演情報をもとに、山本さんの歩みと作品の魅力を整理します。
基本プロフィール
- 名前:山本正典(やまもと・まさのり)
- 生年:1982年
- 出身:福井県
- 肩書:劇作家・演出家
- 所属:コトリ会議
- 活動拠点:関西
コトリ会議は2007年に結成され、山本さんの作品を上演することを活動の中心にしています。作家と演出家が別々にいるのではなく、戯曲を書いた本人が舞台上の声、間、照明、身体の動きまで考えるため、文章だけではなく上演全体で作品の世界が立ち上がります。
コトリ会議での創作
コトリ会議の作品には、現実の生活から少しだけずれた設定が登場します。未来の戦争、空を飛ぶ生き物、蝉の抜け殻、名づけにくい家族の記憶など、現実にはない要素を置きながら、人物が抱える寂しさや戸惑いは具体的に描かれます。大きな世界を作り込むことが目的ではなく、現実を別の角度から見直すために、SFや寓話の形式が使われていると考えられます。
また、山本さんの言葉には独特のリズムがあります。文法が少し崩れた言い回しや、意味がすぐには定まらない会話が、笑いを生みながら人物同士の距離を示します。言葉が完全に通じないからこそ、登場人物が相手を気にかけていることや、届かないまま残る思いが浮かび上がります。
劇場の紹介文では、山本さんの作品について、詩的なせりふ、軽妙なリズム、空白の間、声の高低、絞った照明の陰影を組み合わせる表現として説明されています。これは、戯曲を読むときにも重要な視点です。文字の意味だけを追うのではなく、どの言葉をどれくらいの速さで発し、どこで沈黙するのかを想像すると、作品の輪郭がよりはっきりします。
受賞歴と評価
山本さんは、コトリ会議での活動と劇作の両面で評価を受けてきました。確認できる主な受賞・選出歴は次のとおりです。
- 2010年:應典院舞台芸術祭「space×drama2010」でコトリ会議が優秀劇団を受賞
- 2018年:第9回せんがわ劇場演劇コンクールで劇作家賞を受賞
- 2018年:第25回OMS戯曲賞で佳作を受賞
- 2020年:『セミの空の空』でOMS戯曲賞大賞を受賞
- 2025年:『おかえりなさせませんなさい』が第69回岸田國士戯曲賞の最終候補に選出
- 2025年:『おかえりなさせませんなさい』で第3回関西えんげき大賞の最優秀作品賞・観客投票ナンバーワン賞を受賞
これらの評価からは、山本さんの作品が、劇団公演としての面白さだけでなく、戯曲そのものの独創性と上演可能性の両方で受け止められてきたことがわかります。特に『セミの空の空』から『おかえりなさせませんなさい』へ進む過程では、詩的な言葉の魅力を保ちながら、社会や共同体のあり方へ視線を広げています。
戯曲図書館で読める代表作
セミの空の空
『セミの空の空』は、蝉の抜け殻のような空虚さと、空の広がりを重ねた作品です。生と死の間にある空白を、説明しすぎず、音や沈黙の感触を通じて描いています。山本さんの詩的なせりふと、静かな不条理を知る入口として読みやすい一作です。
題名そのものに、空っぽであることと、どこまでも広がることが同居しています。登場人物の言葉も、何かを明快に解決するというより、言葉を交わすうちに残された感情を照らしていきます。上演を想像しながら読むと、声の強弱や間の長さが作品の一部であることを感じられます。
おかえりなさせませんなさい
『おかえりなさせませんなさい』は、第69回岸田國士戯曲賞の最終候補となった作品です。第八次半世界大戦後の日本を舞台に、徴兵されるか、人間と燕を組み合わせた「ヒューマンツバメ」になるかという選択を、家族の物語として描きます。
設定は大胆ですが、中心にあるのは、家族が互いを守ろうとするときに生じる迷いです。人間の記憶や身体を何と引き換えにするのかという問いが、未来の寓話として提示されます。現実から遠い設定を使うことで、現在の社会にもつながる同調圧力や、他者と共に生きる難しさが浮かび上がります。
戯曲図書館の作品ページでは、山本さんの言葉の組み立てを本文から確かめられます。まず『おかえりなさせませんなさい』を読み、次に『セミの空の空』へ戻ると、異なる設定のなかに共通している「届かなさ」や「それでも誰かに声をかけること」が見えてきます。
近年の活動
2024年には、コトリ会議が『雨降りのヌエ』を長期的な形で発表し、作品と観客が時間をかけて出会う試みを行いました。2024年12月には『おかえりなさせませんなさい』が伊丹市立演劇ホールAI・HALLで上演され、2025年には福岡公演にも展開しました。劇団の拠点である関西だけにとどまらず、各地へ作品を届けている点も、コトリ会議の活動の特徴です。
2026年には、新作『この上のない下水筒』が大阪・東京で上演されました。公演紹介では、大切な人との関係を思い巡らす作品として紹介され、山本さんが作・演出を担っています。これまでの作品で培ってきた、日常の会話から少しずつ世界の見え方を変えていく方法が、最新作でも引き継がれています。
また、コトリ会議は劇場公演だけでなく、短編企画や他地域でのツアーにも取り組んできました。作品の規模や場所に応じて編成を変えながら、観客との距離を調整していることも、山本さんの創作を考えるうえで見逃せません。大きな装置に頼らず、言葉、俳優の声、照明、沈黙によって世界を立ち上げるからこそ、劇場の条件が変わっても作品の核が保たれます。
山本正典の作品を読むときのポイント
山本さんの戯曲を読むときは、設定の謎をすぐに解こうとしないことが大切です。独特な言葉や未来的な設定には、現実の出来事を一対一で置き換える答えがあるとは限りません。まずは、人物がどの場面で沈黙し、どの言葉を繰り返し、誰の声に反応しているのかを追うと、作品の感情の流れがつかみやすくなります。
次に、会話の速度を想像してみてください。短い言葉が続く場面では、笑いのテンポだけでなく、言葉が相手に届く前にこぼれてしまう不安も表現されています。逆に長い沈黙が置かれる場面では、何も起きていないのではなく、人物が言葉にできないものを抱えている可能性があります。
山本さんの作品は、派手な事件を追うだけでは終わりません。奇妙な世界のなかで、誰かと一緒にいることの難しさと、それでも声をかけることの価値を考えさせます。読後にすべてが説明されなくても、せりふの断片や舞台上の空白が残り続けるところに、作品の強さがあります。
まとめ
山本正典さんは、コトリ会議を軸に、SFや寓話の設定と、現代を生きる人の繊細な感情を結びつけてきた劇作家・演出家です。軽妙で詩的なせりふ、独特の間、声と照明を生かした演出によって、現実にはない世界のなかに、身近な寂しさや他者との距離を映し出しています。
はじめて読む方には、OMS戯曲賞大賞作の『セミの空の空』と、岸田國士戯曲賞最終候補作の『おかえりなさせませんなさい』をおすすめします。二作を続けて読むと、山本さんが異なる設定を使いながら、人が誰かとつながろうとする瞬間を描いていることが見えてきます。戯曲図書館の作品ページを入口に、せりふのリズムと舞台上の沈黙を想像しながらお読みください。
参考情報
この記事で紹介した戯曲
戯曲図書館 編集部・公開日 2026/11/01
演劇経験者が運営する戯曲検索サービスの編集チームです。脚本選びのノウハウ、演劇の最新情報、公演レポートなどを書いています。
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