柳沼昭徳プロフィール|烏丸ストロークロックを率いる劇作家・演出家の歩み
柳沼昭徳さんは、京都を拠点に活動する劇作家・演出家です。1999年に劇団「烏丸ストロークロック」を立ち上げ、地域での取材やフィールドワークを創作の出発点にして、社会の不全と人々の生活を舞台化してきました。短い作品を積み重ねながら、数年かけて一つのテーマを長編へ育てる創作方法にも特徴があります。[1][2]
本記事では、柳沼さんの経歴、作風、受賞歴、代表作、そして近年の活動を整理します。戯曲図書館に掲載されている作品へのリンクも紹介しますので、作品を読む入口としてご利用ください。
基本プロフィール
柳沼昭徳さんは1976年に京都府で生まれました。近畿大学在学中の1999年、烏丸ストロークロックを旗揚げし、以後、京都を中心に創作活動を続けています。劇団名には、都市の時間や人の営みを見つめながら、舞台上で現実を組み替えていく姿勢が表れています。[1]
柳沼さんは劇作だけでなく、演出、ワークショップ、市民参加型の創作にも携わっています。京都や三重、愛媛、広島、兵庫県豊岡市など、さまざまな土地で人と出会い、その土地の歴史や生活を調べながら作品をつくってきました。劇場の中だけで完結するのではなく、地域での調査や対話を作品の構造へ取り込む点が大きな特徴です。[1][3]
烏丸ストロークロックでの活動
烏丸ストロークロックは、柳沼さんと俳優の阪本麻紀さんらを中心に、京都を拠点として現代演劇を創作・上演する劇団です。公式サイトでは、地域での滞在制作、神楽や山岳信仰を題材にした作品、住民とともにつくる祭や映像作品などが紹介されています。[4]
劇団の創作では、一つの題材を短期間で使い切るのではなく、長い時間をかけて複数の角度から調べます。小作品やリーディングを重ね、人物や地域の声を掘り下げたうえで、長編作品へと集成していきます。ロームシアター京都の紹介でも、短編作品を積み重ねながら長編へ昇華する活動スタイルが説明されています。[3]
この方法は、作品の完成までに時間を要する一方で、社会問題を単純な主張へまとめず、複数の立場や記憶が交差する舞台を生み出します。観客は、劇作家が用意した結論を受け取るだけではなく、登場人物の言葉や沈黙から、自分自身で状況を考えることになります。
作風の特徴
フィールドワークから始まる劇作
柳沼さんの作品では、地域や社会への取材が重要な役割を果たします。土地の歴史、そこで暮らす人々の記憶、現在の生活が抱える問題を調べ、それらを劇場で再構成します。ドキュメンタリーをそのまま再現するのではなく、調査で得た現実を、モノローグ、会話、身体の動き、音楽などによって演劇的な時間へ変換します。[1][3]
モノローグと日常会話の交差
柳沼さんの舞台では、登場人物が自分の内面や過去を語るモノローグと、目の前の相手に応答する日常会話が交差します。個人の心象風景が長く語られる一方で、会話が思わぬ方向へずれたり、別の人物の記憶が重なったりします。そのため、観客は一人の人物の告白を聞きながら、同時に社会の構造や他者との関係も見つめることになります。[1][3]
歩くこと、集まること
柳沼さんの作品には、人が歩きながら誰かと出会い、話し、過去を見直すという構図が繰り返し登場します。また、祭や共同体のように、人が同じ場所へ集まる場面も重要です。個人の孤独と、集団に属することで生まれる安心や圧力を、身体的な距離として見せる演出が印象的です。
受賞歴と評価
柳沼さんは、2003年に『福音書』で第24回Kyoto演劇フェスティバルの京都演劇大賞を受賞しました。『秘密の朝、焼べる二人』ではミソゲキアワード2011を受賞しています。また、『新・内山』は第60回岸田國士戯曲賞の最終候補に選ばれ、2016年度には京都市芸術新人賞を受賞しました。[1][3]
岸田國士戯曲賞へのノミネートは、柳沼さんの活動が京都の小劇場にとどまらず、現代日本演劇の重要な創作として評価されたことを示しています。地域を題材にしながらも、作品が扱うのは特定の土地だけの問題ではありません。家族、共同体、労働、記憶、災害、信仰といった普遍的な問いが、具体的な場所や人物を通じて立ち上がります。
代表作と戯曲図書館の掲載作品
戯曲図書館では、柳沼さんの作品を読むことができます。
『新・内山』は、京都芸術センターの「演劇計画Ⅱ−戯曲創作−」で発表された作品です。このプログラムは、一つのテーマに長い時間をかけて向き合い、新作戯曲をつくることを目指していました。[5] 戯曲を読む際には、台詞の内容だけでなく、人物がどのような場所に置かれ、誰の言葉が聞き取られ、誰の記憶が取り残されるのかにも注目すると、作品の構造が見えやすくなります。
『怪火』『仇野の露』は、柳沼さんが短編を積み重ねていく創作方法を知るうえで重要な作品です。短い場面のなかに、土地の記憶や人間関係のゆがみが凝縮されています。長編作品と読み比べると、反復されるモチーフがどのように変化し、別の人物や場所へ引き継がれていくのかを確認できます。
また、『新・内山』は同名作品が複数の形で掲載されているため、作品ページの情報を確認しながら読み進めることをおすすめします。上演時間や登場人物の構成を比べることで、作品がどのように整理されているかを考える手がかりになります。
地域とともにつくる演劇
柳沼さんの活動では、地域住民が創作の担い手になるワークショップや市民参加劇も大切な位置を占めています。高校生から高齢者までを対象にしたワークショップを行い、脚本や演出だけでなく、参加者が舞台づくりそのものに関わる機会をつくってきました。[1][3]
豊岡市の但東地域で育ててきた地域芸能「但東さいさい」も、その一例です。新国立劇場のプロフィールでは、2021年から住民とともに創作し、毎年上演を続けている活動として紹介されています。[2] 地域の人々を単に作品の題材にするのではなく、創作のプロセスに参加してもらうことで、舞台は地域の外から持ち込まれた表現ではなく、土地の人々が自分たちの声を確かめる場になります。
近年の活動
近年の代表的な活動として、新国立劇場の「こつこつプロジェクト」での『夜の道づれ』が挙げられます。柳沼さんは、三好十郎の戯曲を第二期・第三期にわたって約4年間かけて検討し、2025年4月にStudio公演として上演しました。[6]
『夜の道づれ』では、夜の甲州街道を歩く男二人の会話劇に対して、実際に街道を歩くフィールドワークも行われました。既成戯曲を短期間で仕上げるのではなく、俳優との対話や試演を積み重ね、言葉と身体の関係を探りながら上演へ近づけた点が、この公演の大きな特徴です。[6]
2026年以降の活動として、新国立劇場では2027年3月に上演予定の『ナハトラント〜ずっと夜の国〜』で演出を務めることが発表されています。海外現代劇を日本の観客へ届ける仕事に取り組むことで、柳沼さんの創作領域は、地域を題材にしたオリジナル作品だけでなく、翻訳劇の演出にも広がっています。[7]
まとめ
柳沼昭徳さんは、烏丸ストロークロックを拠点に、地域への取材、フィールドワーク、モノローグ、日常会話、住民との共同制作を組み合わせてきた劇作家・演出家です。『福音書』『新・内山』『怪火』『仇野の露』などの作品では、個人の記憶と社会の構造が交差します。
作品を読むときは、物語の結論を急いで探すのではなく、誰が語り、誰が沈黙し、人物がどの場所を歩き、どのような集団に出会うのかを追ってみてください。柳沼さんの戯曲は、地域に根ざした具体性を持ちながら、現代社会で人が他者と生きることの難しさを考える入口にもなります。
参考資料
この記事で紹介した戯曲
戯曲図書館 編集部・公開日 2026/10/29
演劇経験者が運営する戯曲検索サービスの編集チームです。脚本選びのノウハウ、演劇の最新情報、公演レポートなどを書いています。
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