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福名理穂プロフィール|広島弁と家族の時間を描く劇作家
福名理穂さんは、劇作家・演出家として活動する、劇団ぱぷりかの主宰です。広島県出身で、広島弁を含む日常の言葉を手がかりに、家族や友人、恋人など、近い関係にある人同士のわかりあえなさを描いてきました。大きな事件を前面に出すのではなく、何気ない会話のずれや、言葉にできない感情の残り方から、人が誰かと一緒に生きる時間を立ち上げる作風が特徴です。
2021年に上演した『柔らかく搖れる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞し、若い世代を代表する劇作家の一人として広く知られるようになりました。この記事では、福名理穂さんの経歴、ぱぷりかの活動、作風、受賞歴、代表作、近年の創作について整理します。
基本プロフィール
- 名前:福名理穂(ふくな・りほ)
- 生年:1991年
- 出身:広島県
- 肩書:劇作家・演出家
- 主宰:ぱぷりか
- 所属:青年団演出部
福名さんは20歳まで広島で過ごした後、演劇を学ぶために上京しました。2012年にノゾエ征爾さんの作品に演出部として参加し、舞台表現の豊かさに触れたことが、創作を続ける大きなきっかけになったと紹介されています。その後、演劇のゼミや劇団のスタッフ経験を重ね、作・演出として短編作品を発表しました。
2014年には、岡本唯さんとともにぱぷりかを旗揚げしました。初期の公演から、広島で身につけた言葉の感覚と、東京で出会った演劇の方法を組み合わせながら、会話を中心とする作品を発表しています。2017年にはこまばアゴラ演劇学校「無隣館」の演出部に所属し、若手自主企画での公演を経て、2019年に青年団演出部へ入りました。
ぱぷりかの創作と作風
ぱぷりかは、福名さんが東京を拠点に活動する演劇団体です。公式プロフィールでは、主に会話劇を中心に、人とのつながりから生まれる虚無感を描く団体として紹介されています。孤独を抱えていても完全に一人ではなく、歳を重ねても大人になりきれない人たちを描き、観客が上演後に人の温かさを感じられる作品を目指しています。
福名さんの戯曲では、人物が自分の気持ちをきれいに説明することは多くありません。言いかけてやめる、相手の言葉を少し取り違える、昔の出来事を別々に覚えている。そのような会話の小さな揺れが、人物の関係を見せていきます。観客は、台詞の情報だけでなく、台詞の間にある沈黙や、言葉が途切れた後の空気から、登場人物の生活を想像することになります。
広島弁の使用も大きな特徴です。方言は単なる地域性の表現ではなく、人物がどこで育ち、どのような距離感で他者と話しているのかを伝える身体的な要素になります。標準語に置き換えたときには薄れてしまう親密さや苛立ち、照れ、ためらいが、声の調子と一緒に立ち上がります。
一方で、作品は特定の地域だけに閉じたものではありません。家族のなかで役割を演じてしまうこと、過去の後悔を抱えたまま生活を続けること、身近な相手ほど本音を伝えにくいことは、多くの人が自分の経験と重ねられる題材です。福名さんは、地域の言葉を使いながら、誰かと暮らすことの普遍的な難しさを描いています。
代表作『柔らかく搖れる』
福名理穂さんの代表作としてまず挙げられるのが、2021年に上演された『柔らかく搖れる』です。広島に住む家族を中心に、孤独、後悔、家族の記憶、残された時間を描く作品です。川の音に誘われるような静かな時間のなかで、登場人物たちは互いを完全には理解できないまま、それでも同じ場所にとどまろうとします。
作品の魅力は、家族を美しい共同体として描かない点にあります。近い関係だからこそ生じる苛立ちや、言わなくても伝わると思ってしまう甘え、過去の出来事をめぐる記憶の食い違いが、抑制された会話のなかに現れます。それでも、関係が壊れて終わるのではなく、壊れかけたまま続いていく生活に目を向けるところに、福名さんの劇作の強さがあります。
戯曲図書館では、『柔らかく搖れる』の作品ページで、作品の基本情報を確認できます。上演を検討する場合は、登場人物の構成や上演時間だけでなく、沈黙や間をどのように舞台上へ置くかを想像しながら読むと、作品の繊細な設計が見えやすくなります。
受賞歴と評価
『柔らかく搖れる』は、第66回岸田國士戯曲賞を受賞しました。岸田國士戯曲賞は、若手劇作家の重要な登竜門として長く知られている賞です。福名さんの受賞作については、地方都市に暮らす一族の生と死を、簡素な台詞で描いた劇作として評価されています。
受賞によって注目を集めた一方、福名さんの創作は、劇的な設定を大きく打ち出す方向へ変わったわけではありません。日常の会話を丁寧に観察し、人物が抱える矛盾を急いで解決しない姿勢が、受賞後の活動にも引き継がれています。2024年には、第1回日本みどりのゆび舞台芸術賞でHOPE賞を受賞しました。
福名さんの作品を読むときは、賞の評価だけを手がかりにするのではなく、どの台詞が人物同士の距離を縮め、どの台詞が距離を広げるのかに注目すると、劇作の具体的な技術を感じ取れます。
戯曲図書館で関連作品を読む
戯曲図書館では、福名さんの『柔らかく搖れる』のほかにも、現代の家族、日常会話、社会の変化を扱う作品を読むことができます。たとえば、会話のなかに社会の揺れを映す作品として岡田利規『三月の5日間』、人間と社会の関係を寓話的に描く作品として前川知大『太陽』があります。
これらは福名さんの作品と同じ内容ではありませんが、登場人物が大きな言葉で時代を説明するのではなく、個人の生活や会話を通して社会の輪郭を見せるという点で、読み比べる面白さがあります。福名さんの作品からは、広島弁の響き、家族の記憶、言葉にならない感情の残り方を手がかりに、現代口語演劇の可能性を考えられます。
近年の活動
2023年には、『柔らかく搖れる』が東京、豊岡、広島で再演されました。初演で評価された作品を別の地域へ持ち運ぶことで、土地の言葉や観客の記憶が作品にどのような変化を与えるのかを確かめる機会にもなりました。
2025年には、ぱぷりか第8回公演『人生の中のひとときの瞬間』が上演されました。これは、ぱぷりかにとって3年ぶりの新作本公演で、福名さんにとって出産後初の新作戯曲です。妊娠、出産、家庭、創作活動をめぐる夫婦の時間を題材に、表現を続けることと生活を営むことの両立を見つめています。
『柔らかく搖れる』が家族の過去や記憶を見つめた作品だとすれば、『人生の中のひとときの瞬間』は、生活が変化する現在の時間を扱った作品といえます。劇作家自身の生活の変化を出発点にしながら、個人的な経験をそのまま告白するのではなく、舞台上の夫婦や劇作家の関係として構成している点が重要です。福名さんは、日常の出来事を題材にしつつ、観客が自分自身の生活を振り返れる劇へ変換しています。
さらに2026年には、2022年に初演した『どっか行け!クソたいぎい我が人生』を、キャストを新たにして4年ぶりに再演しました。三鷹市芸術文化センター星のホールでの公演では、共依存を抱える母と娘の物語を通じて、愛情と恐れが絡み合う家族の関係を描いています。公式サイトでは、福名さん自身が、出産後にもう一度この作品と向き合い、初演時より少しだけ優しい眼差しで挑むと説明しています。受賞後のプレッシャーや生活の変化を、家族の物語へ変換していく姿勢は、近年の活動を考えるうえで重要です。
福名理穂の戯曲を読むポイント
福名さんの作品を読むときは、まず登場人物が何を言ったかを追い、その後で「なぜその言い方をしたのか」を考えると理解が深まります。台詞の表面だけを見ると、家族や友人の雑談に見える場面にも、相手を気遣う気持ち、責任を引き受けたくない気持ち、過去をやり直したい気持ちが隠れています。
次に、方言や言いよどみを、自分の読みやすい言葉へ変換しすぎないことも大切です。広島弁の響きや語尾の揺れを残したまま読むことで、人物の距離感がより具体的に感じられます。上演を考える場合は、台詞の意味を説明しすぎず、沈黙や視線、身体の向きに時間を与えることが、作品の温度を保つ鍵になります。
まとめ
福名理穂さんは、広島弁を含む日常の言葉と、家族や身近な人との関係を軸に創作してきた劇作家・演出家です。ぱぷりかを2014年に旗揚げし、2021年には『柔らかく搖れる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞しました。
作品では、誰かとわかりあうことの難しさを描きながら、完全な孤独ではない生活の手触りも残します。2025年の『人生の中のひとときの瞬間』まで見ると、家族の記憶だけでなく、出産や育児を含む現在の生活と創作の関係へ、関心が広がっていることがわかります。
まずは戯曲図書館の『柔らかく搖れる』を読み、台詞の間に残る感情や、家族の会話が少しずつ変化していく過程を追ってみてください。
参考情報
この記事で紹介した戯曲
戯曲図書館 編集部・公開日 2026/10/28
演劇経験者が運営する戯曲検索サービスの編集チームです。脚本選びのノウハウ、演劇の最新情報、公演レポートなどを書いています。
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