如月小春 プロフィール|劇団NOISEを率いた小劇場第三世代の旗手
如月小春(きさらぎ こはる)さんは、1980年代の小劇場演劇をリードした劇作家・演出家です。東京女子大学在学中に劇団「綺畸(きき)」で活動を始め、1983年に劇団「NOISE」を結成。『DOLL』『MORAL』などの作品で、音楽・映像とコラボレーションしながら都市に生きる若者の感覚を鋭く切り取り、野田秀樹さんや渡辺えり子さんとともに小劇場第三世代の旗手と呼ばれました。44歳で早世されましたが、戯曲・エッセイ・メディア出演・国際演劇活動と多方面にわたる仕事を残された方です。
この記事では、公開情報をもとに、如月小春さんの経歴、作風、受賞歴、そして戯曲図書館で読める代表作を整理してご紹介します。
基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | 如月 小春(きさらぎ こはる) |
| 本名 | 楫屋 正子(かじや まさこ、旧姓:伊藤) |
| 生年月日 | 1956年2月19日 |
| 没年月日 | 2000年12月19日(44歳没) |
| 出身地 | 東京都杉並区 |
| 出身校 | 東京女子大学文理学部哲学科 |
| 主な肩書 | 劇作家・演出家・エッセイスト |
| 主宰劇団 | 劇団NOISE(1983年設立) |
| 関連ページ | 戯曲図書館の著者ページ |
経歴
如月さんは1956年、東京都杉並区のお生まれです。父は東京大学の物理学者という知的な環境で育たれ、小学校時代を中野区の哲学堂公園のそばで、中学・高校時代を武蔵野市の成蹊中学校・高等学校で過ごされました。成蹊時代には同校の交換留学制度でオーストラリアのニューサウスウェールズ州カウラ高等学校に留学されており、早い時期から海外文化に触れておられます。
1974年、東京女子大学文理学部哲学科に入学され、翌年から東京大学の演劇サークルと合同のインターカレッジ劇団「綺畸(きき)」で活動を開始されました。1976年、処女戯曲『流星陰画館 ― 星影の残酷メルヘン』を発表されたのが、劇作家としてのスタート地点です。その後『ロミオとフリージアのある食卓』(1979年初演)、『ANOTHER』(1981年)、『工場物語』(1982年)といった代表作を次々と作・演出され、学生劇団出身の若手劇作家として注目を集められました。
劇団活動のかたわら、大学卒業後は一般企業に就職されて1年間OL生活を送り、その後は学習塾の講師も務めるなど、同世代の女性と地続きの生活感覚を保ちながら創作を続けておられたのが印象的です。
1982年、「綺畸」を脱退され、同年秋には後にパートナーとなる楫屋一之さんとパフォーマンス「光合成Party」を上演されています。1983年、自らの劇団「NOISE」を設立され、同年に『DOLL』、翌1984年から86年にかけて『MORAL』などを上演されました。NOISEには約30名の劇団員が所属し、音楽・映像・テクノロジーと演劇の関係を探求するプロジェクトを次々と展開されたことから、マスコミからは「都会派演劇集団」と評されています。
国際的な活動にも早くから目を向けておられ、1988年にはニューヨーク州バッファローで開催された第1回国際女性劇作家会議に日本代表として参加。1991年からは兵庫県立こどもの館で演劇ワークショップを開始し、1992年には第1回アジア女性演劇会議(AWT)の実行委員長を務められました。立教大学文学部講師、日本ユネスコ国内委員会委員、兵庫県立こどもの館演劇活動委員など公的な役職も歴任されています。
2000年12月、立教大学文学部講師としての職務中に控室で意識を失われ、日大板橋病院に搬送された後、12月19日にクモ膜下出血のため逝去されました。44歳という若さでの早世でしたが、残された戯曲・エッセイ・ワークショップの記録は、現在も多くの演劇人・読者に読み継がれています。
作風
如月さんの作風を貫くのは、都市に生きる若者、とくに女性たちの身体感覚と内面を、言葉のリズムとイメージの連なりで立ち上げていく手法です。『MORAL』での「デデ パパ デデ パパ デパート ギャッ!」といった音として響くフレーズのリフレインに象徴されるように、意味を一度解体して音の層で捉え直し、都市生活の感触そのものを舞台に乗せる試みを早くから実践されていました。
劇団NOISEでの創作では、音楽・映像・ダンス・美術など他分野のアーティストとの共同作業が常態化しており、従来の「戯曲を上演する」演劇の枠を自覚的に越えようとされていた点が特徴的です。坂本龍一さんがプロデュースした「NEO PLANT」(1986年)や、坂本龍一さんとのラジオパフォーマンス「LIFE」(1984年、NHK-FM)など、同時代の音楽シーンとの接続も活発でした。
もう一つの軸は、思春期や若い女性たちの群像を、ドキュメントとフィクションのあいだで描き出す視点です。『DOLL』では高校生になった恵子と友人たちが、それぞれの事情を抱えながら学園生活を送り、やがて暗い影に包まれ、ある決意に向かっていく過程が静かに描かれています。女性の群像を、センセーショナルな事件として外から眺めるのではなく、彼女たちの日常の声の重なりとして内側から描く筆致は、男性作家が主流だった小劇場演劇の中で独自の位置を占めるものでした。
後年は、兵庫県立こどもの館でのワークショップに代表される教育演劇、ワークショップ型創作にも力を注いでおられ、「作品を書く劇作家」から「場をつくる演劇人」へと活動の軸を広げていかれた点も、如月さんの作風を語るうえで欠かせない要素です。
受賞歴
公開情報で確認しやすい主な受賞歴は、次のとおりです。
- 1995年:平成6年度 第10回「O夫人児童演劇賞」
- 1998年:第38回「演劇教育賞」特別賞
いずれも、児童演劇・教育演劇の分野で高く評価された賞です。小劇場演劇の文脈で語られることが多い如月さんですが、兵庫県立こどもの館でのワークショップや児童向けの作品に継続的に取り組んできた仕事が、別の形でもきちんと評価されていたことがわかります。
戯曲図書館で確認できる代表作
戯曲図書館は戯曲の情報をまとめたサイトです(戯曲本文の閲覧はできません)。如月小春さんの作品として、次のページを確認できます。
『DOLL』は、如月さんが劇団NOISEを立ち上げた1983年に上演された、初期の代表作です。主人公の恵子が高校生になった入学式初日、麻里・京子・みどり・いずみという後に友人となる女子高生たちと出会い、それぞれの事情を抱えながら学園生活を送るうちに、少しずつ暗い影に包まれていく――という物語です。女子高生の群像という素材は、当時の小劇場シーンにあって非常に挑戦的な題材でしたが、如月さんはそれを扇情的なトピックとしてではなく、彼女たちの声の重なりとして描き出されました。女性キャストが中心となる学校演劇・学生劇団の作品選びにも視野に入れておきたい一本です。
『砂漠のように、やさしく』は、如月さんの作品群の中でも、タイトルが詩的なイメージを強く喚起する一作です。「砂漠」と「やさしく」という一見相反する言葉を結びつけるタイトルからは、都市の中で感じる孤独や冷たさを、どこかで誰かのやさしさに変えようとする、如月さん独特の感性がうかがえます。都市と人間、乾いた環境と関係性の温度を見つめ直すような作品を探している方に、タイトルの手触りから入ってみていただきたい戯曲です。
『NIPPON CHA!CHA!CHA!』は、1988年に新宿書房から戯曲集としても刊行されている、如月さんの代表作の一つです。繰り返される「チャ!チャ!チャ!」というコール&レスポンスのような音のタイトルからも、言葉を意味ではなく音として響かせる如月演劇の方法論が感じられます。1980年代の日本社会のテンションを、音と身体で捉え直そうとする意欲作で、如月さんの劇作スタイルを理解するうえで欠かせない一本です。
主な著書・戯曲集
戯曲集・著書も数多く刊行されています。戯曲集では、『如月小春戯曲集』(新宿書房、1982年)、『工場物語』(新宿書房、1983年)、『如月小春のしばい』(而立書房、1984年)、『DOLL』(新宿書房、1985年)、『MORAL』(新宿書房、1987年、「MORAL」「ISLAND」「SAMSA」収録)、『NIPPON・CHA!CHA!CHA!』(新宿書房、1988年)が代表的です。没後の2001年には『如月小春精選戯曲集』(新宿書房)、2017年には『DOLL ― 如月小春が遺した美しい7つの物語 如月小春精選戯曲集2』(新宿書房)が刊行され、現在も比較的入手しやすい環境が保たれています。
エッセイ・評論の分野では、『如月小春のフィールドノート』(而立書房、1984年)、『都市の遊び方』(新潮文庫、1986年)、『私の耳は都市の耳』(集英社、1986年)、『都市民族の芝居小屋』(筑摩書房、1987年)、『鏡の中の人間 ― 如月小春サイエンス・インタヴュー集』(ビー・エヌ・エヌ、1988年)など、都市論・サイエンス・児童演劇ワークショップと幅広いテーマの著作を残されています。1996年刊行の『八月のこどもたち ― 劇団NOISE・91夏・ワークショップの記録』(晩成書房)は、児童演劇ワークショップに取り組む方にとって貴重な実践記録です。
近年の公式活動情報
如月さんご本人は2000年に逝去されていますが、現在もその戯曲は、新しい形で読まれ、上演されつづけています。日本劇作家協会の「戯曲デジタルアーカイブ」には如月小春さんのページが設けられ、オンラインで戯曲情報にアクセスできる環境が整えられています。また、早稲田大学演劇博物館でも、「封鎖都市と演劇身体」シンポジウムなどで如月作品が取り上げられるなど、研究対象として改めて光が当てられています。
出版面では、新宿書房から継続的に戯曲集・精選戯曲集が刊行されており、2017年の『DOLL ― 如月小春が遺した美しい7つの物語』まで、節目ごとに代表作のまとめ直しが行われてきました。『如月小春は広場だった ― 六〇人が語る如月小春』(新宿書房、2001年)という追悼・証言集も編まれており、同時代の演劇人・音楽家・友人たちが語る如月像からも、その仕事の広がりをたどることができます。
戯曲図書館では、上記の代表作ページから作品情報にアクセスできます。1980年代の小劇場演劇の熱気と、都市に生きる若者の身体感覚を同時に体感できる書き手として、如月小春さんの戯曲はこれからも読み継がれ、上演され続けていくはずです。まずは『DOLL』から手に取り、如月演劇の静かな強度に触れてみてはいかがでしょうか。
この記事で紹介した戯曲
Written by
戯曲図書館 編集部
演劇経験者が運営する戯曲検索サービス「戯曲図書館」の編集チームです。 脚本選びのノウハウ、演劇業界の最新情報、公演レポートなどを発信しています。
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