文士劇が半世紀ぶりに復活!作家22人が「風と共に去りぬ」を演じるって、気になりすぎる

2026-02-16

文士劇日本文藝家協会風と共に去りぬ演劇史戯曲

あの「文士劇」が帰ってくるらしい

ちょっと面白いニュースを見つけてしまった。

2026年5月23日・24日、東京・紀伊國屋ホールで上演される文士劇『風と共に去りぬ』。出演者の名前を見てほしい。林真理子、島田雅彦、綿矢りさ、村山由佳、山内マリコ、岩井志麻子、井沢元彦、蝉谷めぐ実、辛酸なめ子……総勢22人。

全員、作家。俳優じゃない。プロの役者はゼロ。

「文士劇」っていうのは、作家が自分で舞台に立って芝居をやるという、なんとも不思議なイベントだ。「え、小説家がお芝居するの?」と思うかもしれないけど、実はこれ、明治時代から続く日本独自の伝統なのだ。

しかも今回は、日本文藝家協会の創立100周年記念。半世紀近く途絶えていた文士劇が、この節目に復活するというのだから、演劇好きとしてはワクワクせずにいられない。


そもそも「文士劇」って何だったのか

始まりは明治時代

文士劇の歴史をたどると、思った以上に古くまでさかのぼる。

最初の文士劇は1890年(明治23年)。尾崎紅葉たちが「硯友社劇」として芝居を演じたのが始まりだと言われている。文学者たちの余興みたいなものだったらしい。

1905年には、なんと歌舞伎座で文士劇が上演されている。劇評家の岡本綺堂(『半七捕物帳』の作者としても有名)たちが「若葉会」というグループを作って、綺堂自身が書いた『天目山』を上演したそうだ。普段は批評している人たちが、自分で演じちゃうって、考えてみるとなかなかすごい。

文藝春秋社がやっていた黄金時代

文士劇が本格的に盛り上がったのは、文藝春秋社が主催していた昭和の時代だ。

1934年に始まって、戦後は1952年から1977年まで25年間、毎年開催されていた。年末の恒例行事で、銀座に買い物に行くついでに文士劇を観るのがセットだったっていうんだから、当時の人気がうかがえる。

出演していた作家の顔ぶれがまた豪華で……。

出演した作家代表作
三島由紀夫『金閣寺』、戯曲『サド侯爵夫人』
石原慎太郎『太陽の季節』
五木寛之『青春の門』
野坂昭如『火垂るの墓』
小林秀雄『無常という事』
立原正秋『薪能』『剣ヶ崎』

三島由紀夫、石原慎太郎、野坂昭如が同じ舞台に立っていたと思うと、なんだかクラクラしてくる。特に三島は自分でも戯曲をたくさん書いていた劇作家だから、文士劇でも相当な存在感を見せていたらしい。

舞台裏がまた楽しそう

立原正秋の長女の回想によると、お父さんは文士劇のために帝国ホテルに泊まり込んで連日稽古して、夜はバーに出かけて……という生活を送っていたそうだ。完全に「大人の文化祭」という感じ。

終演後には出演者全員が浴衣姿で舞台に上がって、文人たちのサインがプリントされた手拭いを客席にポンポン投げるのが恒例だったとか。今だったらメルカリで高値がつきそうだけど、当時の観客にとっても宝物だっただろう。

つまり文士劇というのは、ただの「素人芝居」じゃなくて、作家と読者が直接つながるお祭りだったわけだ。

でも、途絶えてしまった

そんな文士劇も、1977年を最後に途絶えてしまう

テレビが強くなって、文壇のあり方も変わって……いろいろな理由が重なったのだろう。それから約半世紀、中央文壇での大規模な文士劇は行われていなかった。

それが2026年、ついに復活する。


演目が「風と共に去りぬ」なのが面白い

実は日本で何度も舞台化されている

今回の演目は、マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』。映画でおなじみの名作だけど、実はこの作品、日本の舞台とすごく深い縁がある。

1966年に東宝の菊田一夫が、新しい帝国劇場のこけら落としとして世界で初めて舞台化した。映画は1939年だけど、ストレートプレイとしての舞台化は日本が世界初。これ、意外と知られていない。

そして1977年、宝塚歌劇団がミュージカル化。これがまた大ヒットで、5組すべてで上演されて、累計観客動員300万人を突破。『ベルサイユのばら』に次ぐ宝塚の看板演目になった。

こうして見ると、『風と共に去りぬ』って日本の演劇界で繰り返し愛されてきた作品なんだなあと改めて思う。

そして今度は「作家が演じる」

2026年版は、帝劇でもなく、宝塚でもなく、小説家22人が演じる

翻訳は『風と共に去りぬ』の新訳でも知られる鴻巣友季子さん。日本文藝家協会の広報委員長でもある鴻巣さんは、「この小説は奴隷制の南部を美化しているのではなく、むしろ反戦のメッセージを持つ作品」と語っている。作品の読み直しとしても興味深い。

脚本は道又力さん、演出は五戸真理枝さんが担当する。


演出の五戸真理枝さんがぴったりすぎる

この人選、よく考えたなあと思う。

五戸真理枝さんは文学座の演出家で、新国立劇場でゴーリキーの『どん底』やデュレンマットの『貴婦人の来訪』を演出してきた方。第30回読売演劇大賞最優秀演出家賞も受賞している、今もっとも勢いのある演出家の一人だ。

でも、今回の文士劇にぴったりだと感じるのは、五戸さん自身が戯曲や童話の執筆もしているから。つまり「書く人」でもあるのだ。書く気持ちがわかる演出家が、書く人の集団を演出する。これ以上の適任があるだろうか。

ちなみに五戸さんが所属する文学座は、1937年に岸田國士、久保田万太郎、岩田豊雄(獅子文六)という**3人の「文士」**が作った劇団でもある。文学と演劇の橋渡しとして生まれた劇団から、文士劇の演出家が出てくるって、なんだかきれいなつながりだ。


出演する作家たちが気になる

22人のキャストの中から、個人的に気になる作家をピックアップしてみたい。

林真理子さん

直木賞作家であり、現在の日本文藝家協会の理事長。100周年の顔として自ら舞台に立つのだから、その気合いが伝わってくる。あの圧倒的な存在感で、きっと舞台上でも主役級の輝きを放つはず。

島田雅彦さん

芥川賞の選考委員も務める純文学の大御所だけど、実はオペラの台本も書いている。2004年に自作を原作にしたオペラ『Jr.バタフライ』を発表していて、舞台芸術との距離が近い作家だ。文士劇でどんな演技を見せるのか、すごく楽しみ。

綿矢りさん

19歳で芥川賞をとった綿矢さんが、舞台に立つ。デビュー作『インストール』を17歳で書いた人だ。身体感覚がそのまま文章に出てくるような文体の持ち主だから、逆にお芝居をするとどうなるのか……想像がつかないところが面白い。

蝉谷めぐ実さん

個人的に一番注目しているのがこの人。早稲田大学の演劇映像コース出身で、卒論は「文化文政時代の歌舞伎」。デビュー作『化け者心中』をはじめ、小説のテーマがほぼ全部歌舞伎。出演者の中で演劇にいちばん近い場所にいる小説家だと思う。

歌舞伎の世界を書き続けてきた人が、自分で舞台に立つ。小説の中で何百回も「演じる」ことを描いてきた人が、実際に「演じる」側になる。これってかなりドラマチックだ。

山内マリコさん

『ここは退屈迎えに来て』が映画化もされた作家。現代の若い女性のリアルな声を書く人が、南北戦争時代のスカーレット・オハラの世界にどう向き合うのか。時代も場所も全然違うけど、「女の人がたくましく生きる」っていうテーマでは通じるものがありそう。


作家がお芝居をすると、何が起きるんだろう

ここからはちょっと個人的な話。

作家って、毎日のように登場人物の気持ちになって小説を書いている人たちだ。主人公の喜びや悲しみを自分の中に作り出して、それを言葉にする。ある意味、書斎の中で毎日一人芝居をしているようなものだと思う。

じゃあ、それを書斎じゃなくて、舞台の上でやったらどうなるか。

正直に言えば、プロの俳優みたいにうまくはないだろう。声の出し方も、動き方も、やっぱり素人だと思う。でも、登場人物の内面を想像する力なら、作家はたぶん誰にも負けない。何十年もキャラクターの心を書いてきた人たちが、その想像力をそのまま身体で表現したら……プロの演技とは違う、何か生々しいものが出てくる気がする。

三島由紀夫が文士劇について、「素人のくせに変に上手い人は面白くない。不器用さの中に何か本物が見える瞬間がある」みたいなことを言っていたらしい。

不器用だからこそ見える本物。それが文士劇の醍醐味なんだろうな。


この機会に読んでみたい戯曲・作品

文士劇の話をしていたら、いくつか関連する戯曲を紹介したくなった。

三島由紀夫の戯曲

文士劇の歴史と切り離せない三島は、小説家であると同時に一流の劇作家でもあった。

  • 『サド侯爵夫人』(1965年)── 登場人物が全員女性の対話劇。三島戯曲の最高傑作と呼ぶ人も多い
  • 『近代能楽集』(1956年)── 能の演目を現代に翻案した短編戯曲集。「卒塔婆小町」「葵上」が有名
  • 『鹿鳴館』(1956年)── 明治の鹿鳴館を舞台にした政治と恋の物語

どれも読み物としても面白いので、戯曲を読んだことがない人にもおすすめできる。

岸田國士の戯曲

五戸真理枝さんが所属する文学座を作った人で、戯曲の名手。ちなみに2月16日には第70回岸田國士戯曲賞の選考会が行われたばかり。

  • 『紙風船』(1925年)── 倦怠期の夫婦の何気ない会話を描いた短編。短いのにじわじわくる
  • 『驟雨』(1926年)── 夫婦の微妙な心理の駆け引き。日本文藝家協会が設立されたのと同じ年の作品

久保田万太郎の戯曲

文学座のもう一人の創設者で、五戸さんが初演出に選んだ『舵』の作者。

  • 『大寺学校』(1927年)── 下町の学校を舞台にした人情劇。台詞の一つ一つに温かみがある

マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』

今回の原作。小説で読むと、映画とはまた違ったスカーレットの生々しさが伝わってくる。鴻巣友季子さんの新訳(新潮文庫、全5巻)が読みやすくておすすめ。


行きたい。

文士劇は、ただのイベントじゃない。

普段は一人で書斎にこもって言葉と格闘している作家たちが、観客の前に出てきて、声を出して、体を動かして、他の人と息を合わせてお芝居をする。文学っていう孤独な作業が、演劇っていう集団の作業に変わる瞬間を目撃できるわけで、それってすごく貴重なことだと思う。

1890年の明治から始まって、昭和の文藝春秋の黄金時代を経て途絶えて、そして2026年の令和に復活する。日本文藝家協会の100年をお祝いするのにぴったりの企画だ。

5月23日・24日、紀伊國屋ホール。チケットは3月21日に一般発売。全席8,000円。

これは正直、観たい。


公演情報

  • 公演名: 日本文藝家協会創立百周年記念 文士劇『風と共に去りぬ』
  • 日程: 2026年5月23日(土)13:00 / 17:30、5月24日(日)13:00
  • 会場: 紀伊國屋ホール
  • 料金: 全席指定 8,000円(税込)
  • 一般発売: 2026年3月21日(土)10:00〜
  • 原作: マーガレット・ミッチェル
  • 翻訳: 鴻巣友季子
  • 脚本: 道又力
  • 演出: 五戸真理枝
  • 公式サイト: サンライズプロモーション東京

参考情報


関連記事