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沖縄を書き続ける劇作家・兼島拓也——「ライカムで待っとく」から新作「クリーン、スマート、テンポラリー」へ、戯曲が照らし出す加害と記憶

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#兼島拓也#田中麻衣子#KAAT神奈川芸術劇場#沖縄演劇#ライカムで待っとく#岸田國士戯曲賞
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2027年1月、KAATに現れる「未来の沖縄」

KAAT神奈川芸術劇場が2027年1月23日から2月7日まで、「クリーン、スマート、テンポラリー」を中スタジオで上演することを発表しました。作は沖縄在住の劇作家・兼島拓也、演出は田中麻衣子。2022年にKAATで初演された「ライカムで待っとく」でタッグを組んだ二人による、4年ぶりのKAATプロデュース作品です。

舞台は2030年、神奈川にある架空の人工島・房島。そこでは沖縄から移住してきた人々がコンテナハウスに暮らしており、自治体が掲げる理念とルールのもとで日常を送っています。しかし、とある出来事をきっかけに、彼らは“疑わしい存在”と見なされていく——。発表された情報によれば、この物語の背景には1945年の沖縄・久米島で起きた「久米島守備隊住民虐殺事件」が、モチーフの1つとして置かれているといいます。

ニュースとしてはシンプルな新作上演の告知です。しかし戯曲の視点から見れば、ここには見逃せない重要性があります。兼島拓也という劇作家が、「ライカムで待っとく」で築いた方法論をどう展開させるのか。そして「沖縄を書く」という営みが、戯曲というテキストにおいて何を可能にするのか。この記事では、兼島拓也の仕事を追いながら、新作に至る文脈を読み解いていきます。


「ライカムで待っとく」が切り開いたもの

作品プロフィール

まず兼島拓也と田中麻衣子の名を演劇界に強く刻んだ前作「ライカムで待っとく」を振り返っておきましょう。

  • 初演:2022年11月30日〜12月4日、KAAT神奈川芸術劇場
  • 作:兼島拓也 演出:田中麻衣子
  • 主な出演:中山祐一朗、前田一世、佐久本宝、蔵下穂波、小川ゲン、神田青、魏涼子、あめくみちこ
  • 再演:2024年、全国ツアー(6月23日「沖縄慰霊の日」に那覇で千秋楽)
  • 主な受賞・ノミネート:第30回読売演劇大賞 優秀作品賞/第26回鶴屋南北戯曲賞ノミネート/第67回岸田國士戯曲賞最終候補

沖縄本土復帰50年にあたる2022年にKAATが掲げたメインシーズン「忘」の第4弾として立ち上がった本作は、ノンフィクション作品「逆転」(伊佐千尋著)を着想源にしています。1964年、アメリカ占領下の沖縄で起きた米兵殺傷事件の裁判を描いた「逆転」の題材を、兼島は現代の東京の若者たちの視点と二重写しにしながら戯曲化しました。

戯曲としての特異性

「ライカムで待っとく」が優れていたのは、題材の重さを「現代の視点のゆらぎ」として立ち上げた構造にあります。朝日新聞のインタビューで兼島は、作品に「常に揺らいでいる自分」を織り込んだと語っています。それは、沖縄に生まれ沖縄に暮らしながら、沖縄を「外から見る」立場にも立たざるを得ない作家自身の二重性でもあります。

戯曲の構造として注目すべきは、過去(1964年の事件)と現在(基地問題の専門家、横須賀の人々、東京の若者たち)を単純に並置するのではなく、「調べる人」の存在を物語の中に組み込んだ点です。これは、観客に「あなたはどの位置からこの物語を見ているのか」を問いかける仕掛けでもあります。沖縄の問題を「沖縄だけの問題」として閉じ込めず、見る者を物語の内側に引きずり込む——その手つきが、戯曲賞の最終候補にまで評価された理由の一つでしょう。


兼島拓也というキャリア——「チョコ泥棒」から全国区の作家へ

プロフィール

  • 1989年、沖縄県生まれ・在住
  • 2013年、演劇グループ「チョコ泥棒」を結成し脚本・演出を担当
  • 沖縄の若者言葉を用いた会話劇を得意とし、コメディやミステリを軸としたオリジナル脚本を手がける
  • 琉球舞踊の作演出や、FUKAIPRODUCE羽衣への戯曲提供など、県外の集団にも作品を書き下ろす
  • 「ライカムで待っとく」で全国的に名を知られる
  • 2024年、那覇文化芸術劇場なはーとの「出会い」シリーズ2で白神ももこと組み「花売の縁オン(ザ)ライン」を発表、第69回岸田國士戯曲賞最終候補
  • 「花売の縁オン(ザ)ライン」の戯曲は「新沖縄文学96号」に掲載

ここで注目したいのは、兼島が最初から「社会派」の作家としてキャリアを始めたわけではないという点です。チョコ泥棒時代の彼は、沖縄の若者言葉を活かした会話劇のコメディやミステリを書く、いわば「土地の言葉で遊ぶ」作家でした。その身体感覚のある言葉の作家が、「ライカムで待っとく」で歴史と向き合い、「花売の縁オン(ザ)ライン」で古典(組踊「花売の縁」)と対話し、そして今回「クリーン、スマート、テンポラリー」で未来の寓話へと歩を進めていく。この作家の射程の広がり方は、同時代の劇作家の中でも際立っています。

二度の岸田國士戯曲賞最終候補

兼島は「ライカムで待っとく」で第67回、「花売の縁オン(ザ)ライン」で第69回と、短期間で二度岸田國士戯曲賞の最終候補に選ばれています。岸田賞の最終候補に二作品続けて残るというのは、現代日本の劇作家にとって極めて重い評価です。特に沖縄在住で、沖縄を主題とする作家がこの位置に立つことは、戦後の演劇史全体を見渡してもそう多くはありません。知名度の面では東京中心の演劇ジャーナリズムに取り上げられにくい地方在住作家が、戯曲というテキスト一つで中央の評価軸に食い込んできているのです。


新作「クリーン、スマート、テンポラリー」が立ち上げようとしているもの

あらすじと設定の読み解き

発表された情報を整理すると、新作の設計はこうなります。

  • 時代:2030年(近未来)
  • 舞台:神奈川にある架空の人工島・房島
  • 登場人物:沖縄から移住してきた人々と、彼らを管理する自治体
  • 住居形式:コンテナハウス
  • 背景にあるモチーフ:1945年、久米島で住民20人がスパイとされて殺害された住民虐殺事件
  • シリーズテーマ:KAAT 2026年度「なぜ人は線を引くのか -Why do people draw the lines?」

このタイトル「クリーン、スマート、テンポラリー(Clean, Smart, Temporary)」の三語は、現代の都市開発や難民・避難民キャンプの標語でよく使われる言葉です。清潔で、合理的で、一時的——その三語を掲げた「よくできた」空間がいかに人を分断し、「疑わしい者」を作り出していくか。兼島のコメントにある「あってほしいけどここにじゃない施設を格納するにはうってつけの、でもときどき非日常も提供してくれる、隔絶と解放を同時に実現する装置」という沖縄の捉え方は、そのまま房島という架空の人工島に転写されています。

久米島住民虐殺事件という歴史的核

戯曲の背後に置かれた久米島守備隊住民虐殺事件は、沖縄戦末期の1945年6月から8月20日にかけて、島に配備された海軍通信隊「鹿山隊」(隊長・鹿山正兵曹長)が住民20人を「スパイ」とみなして殺害した事件です。玉音放送後の8月20日にも、朝鮮人の谷川昇一家7人(夫妻と子5人)が惨殺されました。密告や差別が絡み合い、「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を最も鋭く示す事件の一つとして、現在も語り継がれています。

兼島が「ライカムで待っとく」で1964年の米兵殺傷事件を取り上げたときと同じく、ここでも彼は「加害の構造」そのものを戯曲に組み込もうとしているように見えます。ただし今回は、題材を過去として描くのではなく、2030年の神奈川に場を移し、「もし今あの構造が再現されたら」という思考実験として立ち上げている。これは戯曲作家としては大きな一歩です。過去の事件を再現するドキュメンタリー演劇ではなく、歴史から蒸留した「加害の文法」を未来の寓話として提示する——演出家の田中麻衣子が「予言書が作られる過程のようでもあり、誰かの予知夢を覗いているような感覚にもなる」とコメントしているのは、まさにこの戯曲の構造に対する実感でしょう。

「なぜ人は線を引くのか」というシリーズの中で

本作は、KAAT神奈川芸術劇場が2026年度に掲げるテーマ「なぜ人は線を引くのか -Why do people draw the lines?」の一環として位置づけられています。同シリーズでは既に「ジャングル」「蛙昇天」が上演されており、「クリーン、スマート、テンポラリー」はその第3弾にあたります。

劇場がシーズンテーマを掲げ、複数の作品で一つの問いを多角的に掘り下げるという枠組みの中に兼島作品が置かれていることは重要です。「線を引く」ことは、スパイと住民を分けること、本土と沖縄を分けること、仮住まいと定住を分けること、人工島と内地を分けること——これらすべてに通じる現代の政治的な行為です。兼島はその問いに、沖縄の歴史と身体から答えようとしているのでしょう。


兼島拓也と「田中麻衣子」というタッグ

今回のもう一つの注目点は、「ライカムで待っとく」のコンビが再び組むという事実そのものです。

演出の田中麻衣子は沖縄に出自を持つ演出家で、兼島とは「作家が書き、演出家が立ち上げる」という単純な分業ではなく、長期的なリサーチと対話を重ねて作品を練り上げるタイプの創作者です。「ライカムで待っとく」はKAATの「カイハツプロジェクト」(長期的な創作開発)を経て生まれた作品であり、短期の商業ベースで作られた戯曲とは異なる密度を持っていました。

今回の「クリーン、スマート、テンポラリー」も、兼島のコメントによればKAATと羽田を往復する車窓から着想が芽生えたとのこと。長い往復と対話を経て、2027年1月の初日を迎える——この創作プロセス自体が、ショービジネスとしての演劇とは異なる「戯曲を育てる」文化の表れです。戯曲図書館としては、そうした粘り強い開発プロセスから生まれるテキストこそ、長く読み継がれる価値があると考えます。


関連して読める・観られる作品

兼島拓也と、沖縄を主題にした戯曲に関心を持たれた方へ、関連する作品をいくつかご紹介します。

兼島拓也の戯曲を読む

  • 「花売の縁オン(ザ)ライン」:第69回岸田國士戯曲賞最終候補作。白神ももこ演出。沖縄の古典・組踊「花売の縁」と現代をつなぐ作品で、戯曲は「新沖縄文学96号」に掲載されています。琉球舞踊や古典芸能に関心のある方には特に。
  • 「ライカムで待っとく」:2022年初演、2024年全国再演。沖縄戦後史を扱う現代戯曲の重要作。公演の映像記録や上演台本については、KAATや関連媒体の情報を参照してください。

沖縄と演劇の交点を描いた作品

  • 知念正真「人類館」(1976年):第22回岸田國士戯曲賞受賞。1903年の大阪万博で沖縄人・アイヌ・朝鮮人らを「展示」した「学術人類館事件」を題材に、「見る/見られる」の構造を暴いた戯曲。兼島作品を読む前提として外せない一本です。
  • 坂手洋二「普天間」(燐光群):基地問題を正面から扱った戯曲として、兼島作品と対照的に読めます。本土の作家が沖縄をどう書いたかという視点として重要。

「加害の構造」を扱う現代戯曲

  • 松井周の各作品:共同体の「内側/外側」を書く作家として、兼島の問題意識と響き合う部分があります。
  • **岡田利規「三月の5日間」**などの、個人と社会のあいだの「気分」を書く系譜も、現代の寓話としての新作を読み解く補助線になります。

戯曲図書館では、こうした現代戯曲や沖縄・社会派作品を検索して探すことができます。劇作家名での検索や、タグによる絞り込みから、関心のある作品に出会っていただければと思います。


まとめ——戯曲が未来を書くとき

「クリーン、スマート、テンポラリー」の情報を単なる上演告知として受け取るのは惜しいことです。兼島拓也という劇作家は、沖縄という土地に根を張りながら、歴史・現在・未来を一本の戯曲の中で往復させる方法を鍛え上げてきました。「ライカムで待っとく」が過去と現在を交差させる作品だったとすれば、新作は過去から蒸留した構造を未来の寓話として立ち上げる試みになるはずです。

戯曲というテキストが優れているのは、時間を自由に組み直せるところにあります。小説のように読み進める時間ではなく、舞台上で「今」として立ち上がる時間を、作家は過去にも未来にも配置できる。兼島拓也はその戯曲の特性を、沖縄をめぐる歴史的経験と結びつけて使いこなしつつある数少ない現代作家の一人です。

2027年1月、KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ。チケット一般販売は11月1日スタート。実際の舞台に足を運ぶ前に、ぜひ兼島の既発表作や、関連する沖縄演劇の系譜をたどってみてください。戯曲というテキストは、一度の上演で終わらず、読まれ、議論され、次の作品の土壌になっていくものです。戯曲図書館は、その長い時間に寄り添う場所でありたいと考えています。


参考情報源

  • ステージナタリー「兼島拓也×田中麻衣子、未来の神奈川から沖縄見つめる新作『クリーン、スマート、テンポラリー』」(2026年9月29日)
  • KAAT神奈川芸術劇場 公式サイト「ライカムで待っとく」ページ
  • 朝日新聞デジタル「『沖縄』映す戯曲、常にゆらぐ自分織り込んだ 劇作家・兼島拓也さん」
  • 梅田芸術劇場 アーティスト紹介「兼島拓也」
  • 那覇文化芸術劇場なはーと「花売の縁オン(ザ)ライン」特設ページ
  • 沖縄タイムス/東京新聞/中日新聞 久米島住民虐殺事件関連報道

Written by

戯曲図書館 編集部

演劇経験者が運営する戯曲検索サービス「戯曲図書館」の編集チームです。 脚本選びのノウハウ、演劇業界の最新情報、公演レポートなどを発信しています。

公開日: 2026-10-02

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