はせひろいちプロフィール|静かな演劇を進化させた岐阜発の劇作家
はせひろいちさんは、岐阜市を拠点に活動する劇団ジャブジャブサーキットの代表として、40年にわたって独自の会話劇を書き続けてきた劇作家・演出家です。地方都市にアトリエを構えながら、全国規模の演劇賞で評価され、岸田國士戯曲賞の最終候補にも三度選ばれています。「観客との想像力の共有」を軸にした緻密な会話研究と、知的エンターテインメントとしての物語構築力は、日本の現代演劇のなかでも独自の立ち位置を築いてきました。
本記事では、はせひろいちさんの経歴、作風、受賞歴、代表作、近年の活動を整理してご紹介します。
基本プロフィール
- 名前:はせ ひろいち(はせ ひろいち)
- 生年月日:1960年6月22日
- 出身:岐阜県岐阜市
- 出身大学:岐阜大学
- 主な肩書:劇作家、演出家
- 主な活動母体:劇団ジャブジャブサーキット(代表)
- 所属:日本劇作家協会会員、日本演出者協会理事
経歴
はせひろいちさんは、1960年に岐阜市で生まれました。岐阜大学を卒業後、1984年に劇団ジャブジャブサーキットを結成します。当初は地元の新聞社に勤めながら創作活動を続けていましたが、1989年に新聞社を退社したことをきっかけに、作・演出に専念する道へと進みました。以降は劇団代表として、書き下ろし戯曲を110本以上書き続けています。
1990年代は、全国的に「静かな演劇」と呼ばれる潮流が同時多発的に生まれた時期でした。はせさんもその一角を担いながら、既存の「静かな演劇」とは異なる物語性と題材の柔軟さを打ち出し、「新しい進化型」として注目を集めます。SF、ミステリー、評伝、精神医療、科学史など、幅広い題材を会話劇の文法で立ち上げる手腕は、他の劇作家にはなかなか見られないものです。
その後、名古屋市やNHK、愛知県などの主催事業・招待公演で実績を重ね、他劇団への戯曲書き下ろしや演出の仕事も増やしていきました。岐阜という地方都市を拠点にしながら、「地域発信の全国レベルでの活動」を体現してきた点は、はせさんのキャリアを語るうえで欠かせないポイントです。
劇作家としての仕事に加え、ワークショップ講師や高校演劇の審査員、シナリオ作家としても活動の幅を広げています。岐阜大学、静岡文化芸術大学、名古屋音楽大学などで非常勤講師を務めてきたほか、長久手市文化の家と岐阜市で主宰する「戯曲セミナー」の塾長を長年にわたって続け、次世代の劇作家の育成にも力を注いでいます。
作風
はせひろいちさんの作風は、繊細な会話劇のなかに、SF的な想像力や社会的テーマを巧みに織り込むところに大きな特徴があります。日常的な会話のリズムを崩さないまま、台詞の外側に関係性のネットワークを構築させるような演出論を掲げており、観客が自分の想像力を使いながら物語を受け取ることを前提とした戯曲設計です。
題材の幅広さも印象的です。沈みゆく豪華客船の娯楽室という極限状況を扱ったものから、アインシュタインの来日という史実を下敷きにした評伝劇、摂食障害を正面から描いた群像劇、不条理な記憶の揺らぎを扱った小品まで、ジャンルを縦横に行き来しています。しかし、どの作品にも「会話のなかで人物の輪郭が少しずつ見えてくる」という共通の肌触りがあり、派手な出来事よりも、言葉の選び方や沈黙の間合いで登場人物の内面を立ち上げていきます。
また、「知的エンターテインメント」という自己認識にも表れている通り、観客を楽しませる娯楽性と、現代社会への批評性を両立させることに強いこだわりを持っています。笑いの要素とシリアスなテーマが地続きで存在する作風は、観る側に心地よい緊張感を与え続けています。
受賞歴
はせひろいちさんは、長いキャリアのなかで数多くの演劇賞に輝いてきました。主な受賞歴は以下の通りです。
- 1998年:『非常怪談』『ランチタイムセミナー』の作劇で第2回松原英治・若尾正也記念演劇賞を受賞
- 1999年:『不測の神々』で日本劇作家協会新人戯曲賞 優秀賞を受賞
- 2000年:岐阜市芸術文化奨励賞を受賞
- 2004年:名古屋市芸術奨励賞を受賞
- 2007年:岐阜県芸術文化奨励賞を受賞
さらに、1999年、2004年、2006年の3回にわたり、岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされています。岸田戯曲賞は現代演劇における最も権威ある戯曲賞のひとつであり、三度の最終候補入りは、はせさんの戯曲が長期間にわたって高い水準を保ち続けていることを示しています。地方拠点の劇作家としては際立った評価であり、「地域発信の全国レベル」というキャリアを支える裏付けにもなっています。
代表作
戯曲図書館でも、はせひろいちさんの代表的な戯曲を収録しています。ここでは代表作をいくつか取り上げ、作品の魅力を紹介します。
『タイタニック・ポーカー』
1997年に大ヒットした映画『タイタニック』の裏側で囁かれる、「沈みゆく船の娯楽室で、最後までポーカーに興じていた数人がいたらしい」という伝聞を出発点にした戯曲です。北村想さんから「お前書け。俺は無理」と託されたエピソードを、2年越しで作品化したという経緯も興味深く、群像会話劇の面白さを堪能できる一本です。極限状況のなかでも手札を見つめ続ける人々の姿を通して、「人は何を手放せないのか」という普遍的な問いを浮かび上がらせます。
『アインシュタインショック』
アインシュタイン研究の第一人者である金子務氏の名著『アインシュタイン・ショック』を下敷きに、1922年のアインシュタイン来日と、大正期の科学ブーム・民衆意識の揺らぎを描いた意欲作です。評伝劇として歴史的事実を押さえながら、はせさんならではの会話劇の軽やかさで時代の空気を立ち上げるところに読みどころがあります。科学と社会の関係を考えるうえでも示唆に富む作品です。
『歪みたがる隊列』
はせひろいちさんの近年の問題意識が色濃くにじむ会話劇で、集団と個人のあいだで揺らぐ人物像を丁寧に描き出します。整った隊列のなかに生まれる微妙な違和感を軸に、「揃うこと」と「ずれること」の両方に光を当てる構成が特徴的です。
『ダブルフェイク』
二重性やすれ違いをモチーフにした作品で、はせさんの得意とする「静かな緊張感」と「ミステリアスな仕掛け」の両方を楽しめる戯曲です。会話の積み重ねのなかに違和感が滲み、やがて関係の底にある秘密が姿を現していく展開は、知的エンターテインメントの醍醐味そのものです。
このほかにも、精神医療の現場を題材にした『しずかなごはん』など、はせさんの作風を代表する作品が数多くあります。会話劇の文法で社会を切り取るスタイルは、現代の演劇ファンにとって一度は触れておきたい世界観です。
近年の活動
近年のはせひろいちさんは、劇団ジャブジャブサーキットの代表として旺盛な創作と公演活動を続けながら、教育者としての活動にも深く関わっています。長久手市と岐阜市で主宰する「戯曲セミナー」の塾長を、それぞれ20年以上・15年以上にわたって継続しており、地域に根ざした戯曲教育の拠点を支え続けています。
また、岐阜大学、静岡文化芸術大学、名古屋音楽大学などでの非常勤講師の活動を通じて、大学教育の場でも次世代の劇作家・演劇人を育てています。日本演出者協会の理事としても活動しており、現場の演出家の立場から日本演劇の制度面を支える役割を担っています。
劇団としては、公式ウェブサイトや公式X(旧Twitter)アカウント「@jjcoffice1010」で公演情報を発信しており、名古屋・東京・大阪を含む都市公演を継続しています。地方拠点の劇団でありながら全国規模のファンを獲得している姿勢は、「地方発信の演劇」の可能性を示す貴重な事例です。
さらに、日本劇作家協会東海支部の俳優A賞の審査員を務めるなど、同世代・次世代の俳優や劇作家を評価する側の仕事も重ねており、東海地方の演劇シーン全体を牽引する存在になっています。
まとめ
はせひろいちさんは、「静かな演劇」の進化型として注目を集めながら、SFから評伝劇、精神医療まで題材を柔軟に広げてきた、極めて独自の歩みを持つ劇作家です。岐阜という地方拠点から全国規模の評価を得続け、岸田國士戯曲賞の最終候補に三度残るという実績は、作品のクオリティと持続力の高さを雄弁に物語っています。
戯曲図書館では、はせさんの代表作である『タイタニック・ポーカー』、『アインシュタインショック』、『歪みたがる隊列』、『ダブルフェイク』などを収録しています。知的エンターテインメントとしての会話劇に触れたい方、地方発信の演劇の可能性に関心のある方には、ぜひ一度その世界に飛び込んでいただきたい劇作家です。
この記事で紹介した戯曲
Written by
戯曲図書館 編集部
演劇経験者が運営する戯曲検索サービス「戯曲図書館」の編集チームです。 脚本選びのノウハウ、演劇業界の最新情報、公演レポートなどを発信しています。
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