日本の小劇場演劇の歴史|アングラから現代まで
2026-02-08
演劇知識小劇場演劇史演劇ジャンルアングラ
日本の小劇場演劇は、1960年代のアングラ演劇に始まり、時代ごとに変化しながら独自の文化を築いてきました。その歩みを振り返ります。
前史:新劇の時代(1900年代〜1960年代)
日本の近代演劇は、西洋演劇を取り入れた「新劇」から始まりました。
- 1906年:坪内逍遥の文芸協会、小山内薫の自由劇場が新劇の出発点
- 戦後:俳優座、文学座、民藝などの新劇団が活躍
- リアリズム演劇が主流。イプセン、チェーホフ、ブレヒトなどの翻訳劇を中心に上演
しかし1960年代に入ると、新劇のリアリズムに反発する若い演劇人が現れます。
第一世代:アングラ演劇(1960年代〜1970年代)
時代背景
60年安保闘争、ベトナム反戦運動、学生運動——激動する社会の中で、「小劇場運動」(アンダーグラウンド=アングラ演劇)が生まれました。
代表的な演劇人
- 唐十郎(からじゅうろう):紅テント(状況劇場)を率い、テントを張って公演する野外劇を展開。詩的で激烈な言葉と肉体の演劇
- 寺山修司:天井桟敷を主宰。演劇の枠を超え、街頭劇や観客参加型の実験的作品を展開。映画監督、歌人としても活躍
- 鈴木忠志:早稲田小劇場(のちSCOT)を創設。「鈴木メソッド」という独自の俳優訓練法を開発し、国際的に影響を与えた
- 佐藤信:黒テント(68/71黒色テント)を率い、全国をテントで巡回する公演活動を展開
- 別役実:日本の不条理劇の第一人者。ベケットの影響を受けつつ、日本的な不条理の世界を作り上げた
アングラの特徴
- 既成の劇場ではなく、テント、倉庫、路上などで上演
- 肉体性・身体性の重視
- 反体制・反権威的なメッセージ
- 詩的・神話的な言葉遣い
- 観客と舞台の境界を壊す試み
第二世代:小劇場ブーム(1980年代)
時代背景
経済成長とともに若者文化が花開いた1980年代、演劇もポップカルチャーの一部となりました。
代表的な演劇人
- 野田秀樹:夢の遊眠社を主宰。言葉遊び、スピード感、エンターテインメント性を兼ね備えた作品で一世を風靡
- 鴻上尚史:第三舞台を主宰。同世代の若者の感覚を演劇に持ち込み、熱狂的な人気を獲得
- 渡辺えり(渡辺えり子):劇団3○○を主宰。ファンタジーと社会性を融合させた作品
- 北村想:名古屋を拠点に活動。SFや哲学をテーマにした知的な作品
- つかこうへい:70年代から活動し、80年代に人気が絶頂に。圧倒的な熱量と速度のセリフ劇
小劇場ブームの特徴
- 下北沢、新宿、池袋に小劇場が続々オープン
- チケットが即日完売するなど、演劇がブームに
- テレビで活躍する俳優が小劇場から多数輩出
- ポップでわかりやすい作品が主流に
第三世代:静かな演劇(1990年代)
代表的な演劇人
- 平田オリザ:青年団を主宰。「現代口語演劇」を提唱し、日常会話のリズムを舞台に導入。大声や大げさな演技を排した「静かな演劇」
- 岩松了:日常の沈黙と不穏さを描く作品。セリフの行間にドラマがある
- 宮藤官九郎:大人計画に参加。テレビ・映画の脚本でも活躍し、演劇とメディアの境界を越えた
- ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA):ナイロン100℃を主宰。コメディと不条理を融合させた独自の作風
90年代の特徴
- 80年代の「熱い演劇」への反動として「静かな演劇」が台頭
- 日常的なセリフ、小さな声、間(ま)の演劇
- 小劇場の数が増え、多様な表現が共存する時代に
第四世代:2000年代以降
代表的な演劇人
- 岡田利規:チェルフィッチュを主宰。日常語のだらだらした語りと独特の身体表現。『三月の5日間』で岸田國士戯曲賞を受賞
- 前川知大:イキウメを主宰。SF的な設定と日常のドラマを融合
- 藤田貴大:マームとジプシーを主宰。「リフレイン(反復)」の手法で注目
- 市原佐都子:Q(劇団)を主宰。身体・性・生殖をテーマにした挑発的な作品
現代の小劇場の特徴
- 劇作家・演出家の個性がさらに多様化
- 国際的な活動が増加(海外フェスティバルへの参加)
- 映像・テクノロジーとの融合
- 社会的なテーマ(震災、ジェンダー、マイノリティ)への取り組み
- コロナ禍を経て、配信公演やハイブリッド型の模索
小劇場演劇を観に行こう
60年以上の歴史を持つ日本の小劇場演劇は、今なお最もエネルギッシュで多様な表現が生まれる場です。
大劇場のミュージカルや商業演劇とは異なる、「目の前で何かが起きる」生々しさ——それが小劇場の魅力です。
まずは近くの小劇場に足を運んでみてください。きっと、今まで知らなかった演劇の世界が広がるはずです。
