脚本の書き方入門|初めて戯曲を書く人へ
2026-02-08
戯曲(脚本)を書いてみたい。でも、何から始めればいいのかわからない——そんな方のための入門ガイドです。
戯曲とは何か
戯曲とは、舞台上演を前提に書かれた文学作品です。小説と異なり、セリフと**ト書き(舞台指示)**で構成されます。
日本では「脚本」「台本」「戯曲」が混用されることがありますが、一般的に以下のように使い分けられます。
- 戯曲:文学作品としての完成度を持つ脚本。出版されることが多い
- 脚本:映画・テレビ・舞台の台本全般を指す
- 台本:稽古や上演のために使う実務的な呼び方
書き始める前に決めること
1. 登場人物を決める
何人の登場人物が必要かを最初に決めましょう。上演を想定する場合、キャスト数は現実的な制約になります。
- 2〜3人:少人数で濃密なドラマを描ける。二人芝居は演劇の基本形
- 5〜8人:アマチュア劇団で最もやりやすい規模
- 10人以上:学校演劇や大人数の劇団向け
2. 場所と時間を設定する
舞台の場所(ロケーション)と時間軸を決めます。初心者のうちは、一つの場所・一日の出来事に限定すると書きやすくなります。
これはアリストテレスが『詩学』で述べた「三一致の法則(時間・場所・筋の統一)」に通じる古典的な手法です。
3. 何が起きるかを考える
「始まり」と「終わり」で、登場人物の状態がどう変わるかを考えましょう。この変化がドラマの核になります。
脚本の基本フォーマット
日本の戯曲には統一されたフォーマットはありませんが、一般的な書き方は以下の通りです。
登場人物
田中(30代・会社員)
佐藤(20代・田中の後輩)
第一場 オフィスの休憩室。昼休み。
田中、コーヒーを飲んでいる。
佐藤、入ってくる。
佐藤 あ、田中さん。ちょっといいですか。
田中 (カップを置いて)なに?
佐藤 来月の異動の件なんですけど——
田中 ああ、あの話か。
ト書きのポイント
ト書き(舞台指示)は、役者の動きや舞台の状況を示す部分です。
- 必要最低限にする。細かすぎると演出家・役者の自由を奪う
- 「嬉しそうに」「悲しげに」など感情の指示は控えめに。それはセリフと演技で伝える
- 場所の転換、人の出入り、重要な動作に絞る
セリフの書き方
- 自然な会話を心がける:実際に声に出して読んでみる
- キャラクターごとに話し方を変える:語尾、語彙、テンポで個性を出す
- 説明セリフを避ける:「私たちは10年前に別れた夫婦だけど」のような不自然な説明はNG
- サブテキスト(言外の意味)を意識する:人は本心を直接言わないことが多い
構成の基本
三幕構成
多くの物語は以下の三幕構成で成り立ちます。
- 第一幕(設定):登場人物と状況を紹介し、事件が起こる
- 第二幕(展開):対立・葛藤が深まる。最も長いパート
- 第三幕(結末):クライマックスと解決
起承転結
日本の物語構成でよく使われるのが起承転結です。
- 起:物語の始まり、状況説明
- 承:展開、物語が動き出す
- 転:予想外の展開、逆転
- 結:結末
短編戯曲(30分程度)であれば、起承転結のシンプルな構成が書きやすいでしょう。
プロの劇作家に学ぶヒント
平田オリザの「会話」と「対話」
平田オリザは著書『演劇入門』(講談社現代新書、1998年)で、「会話」と「対話」の違いを論じています。
- 会話:すでにコンテクスト(文脈)を共有している人同士のやりとり
- 対話:異なるコンテクストを持つ人同士のやりとり
演劇的に豊かなのは「対話」の場面です。異なる背景・価値観を持つ人物が出会うところにドラマが生まれます。
別役実の「不条理」の技法
別役実は『言葉への戦術』(白水社)の中で、日常の言葉がズレていく面白さについて語っています。当たり前の会話が、少しずつ噛み合わなくなる——そこに演劇独自の緊張感が生まれます。
まずは短いものから
最初から長編を書く必要はありません。以下のステップで始めてみましょう。
- 5分の二人芝居を書いてみる
- 友人に読んでもらい、声に出して違和感がないか確認する
- 可能なら、実際に立って演じてみる(リーディング公演でもOK)
- 反省点を踏まえて、次は15分の作品に挑戦する
戯曲図書館には、さまざまな上演時間・人数の脚本が登録されています。まずはプロの作品を読んで、構成やセリフの技法を学んでみてください。
おすすめの参考文献
- 平田オリザ『演劇入門』(講談社現代新書、1998年)
- 別役実『言葉への戦術』(白水社)
- 野田秀樹『野田秀樹の仕事』(新潮社)
- デイヴィッド・マメット『演出についての真実と俳優への助言』(而立書房)
上演を前提とした戯曲には、小説やエッセイにはない独自の面白さがあります。ぜひ一度、書いてみてください。
