別役実|日本の不条理劇の父
2026-02-08
別役実(べつやく・みのる)は、日本の不条理劇を確立した劇作家です。サミュエル・ベケットの影響を受けながらも、日本的な風土と感覚を持つ独自の不条理世界を作り上げました。
プロフィール
- 生没年:1937年4月6日 - 2020年3月3日
- 出身地:旧満州国新京市(現・中国長春市)
- 学歴:早稲田大学政治経済学部中退
- 主な受賞歴:岸田國士戯曲賞(1968年『マッチ売りの少女』『赤い鳥の居る風景』)、紀伊國屋演劇賞、鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞、朝日賞
経歴
旧満州に生まれ、戦後に日本に引き揚げ。早稲田大学で演劇を志し、在学中にサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』に衝撃を受けます。これが別役の創作の原点となりました。
1968年、『マッチ売りの少女』『赤い鳥の居る風景』で岸田國士戯曲賞を受賞。以降、50年以上にわたって不条理劇を書き続け、生涯で200作品以上の戯曲を残しました。
2020年、肺炎のため82歳で逝去。
代表作品
- 『マッチ売りの少女』(1966年):アンデルセンの童話を下敷きにした不条理劇。少女の死を巡る大人たちの不気味な会話
- 『象』(1962年):原爆の後遺症を持つ男を描いた初期の代表作
- 『赤い鳥の居る風景』(1967年):「赤い鳥」の存在をめぐる不条理な対話
- 『壊れた風景』(1970年代):街角に佇む二人の男女の噛み合わない会話
- 『移動』(1973年):引っ越しを巡る不条理コメディ
別役実の不条理劇とは
ベケットとの関係
別役はベケットから出発しましたが、ベケットの不条理をそのまま踏襲したわけではありません。
ベケットの不条理が「存在の不安」「形而上学的な空虚」に根ざしているのに対し、別役の不条理は**日本の日常生活の中にある「ズレ」**に根ざしています。
日常のズレ
別役の戯曲に登場するのは、電柱の下に立つ男女、引っ越し途中の夫婦、病院の待合室の患者たち——どこにでもいそうな人々です。
彼らは一見普通の会話をしているように見えますが、少しずつ言葉が噛み合わなくなり、日常の裏側にある不気味さが露わになっていきます。
ユーモア
別役の不条理は深刻一辺倒ではありません。言葉のズレが生む「おかしみ」は、別役劇の大きな魅力です。笑えるのに、どこか不安になる——そのバランスが絶妙です。
「電柱」と「棒の人物」
別役の戯曲には、電柱、棒杭、ベンチ、街灯などが頻繁に登場します。これらは日本の街角の風景であると同時に、「どこでもない場所」を示す記号でもあります。
登場人物には固有名詞がないことも多く(「男A」「女」など)、特定の個人ではなく「人間一般」を表しています。
別役実のエッセイ
別役は劇作家であると同時に、優れたエッセイストでもありました。
- 『言葉への戦術』(白水社):言葉と演劇についての考察
- 『犯罪症候群』(白水社):犯罪をテーマにしたユーモアエッセイ
- **『虫づくし』**など:独特のユーモアを持つエッセイ集
特に『言葉への戦術』は、戯曲を書く人にとって必読の書です。
別役実を読む
別役の戯曲は短編が多く(上演時間30分〜60分程度の作品が多い)、読みやすいです。
- 三一書房の『別役実戯曲集』が網羅的
- 『マッチ売りの少女』は白水社の「ベスト・オブ・ベスト」シリーズに収録
一見シンプルな会話の中に、読むたびに新しい発見がある——それが別役実の戯曲の魅力です。静かに、しかし確実に、読む人の世界の見方を変える力を持っています。
