戯曲図書館の運営をしていると、「この作品って何か賞を取っていますか?」という問い合わせをいただくことがあります。
確かに、演劇に興味を持ち始めた方にとって「どの賞が何を評価しているのか」は分かりにくいものです。文学賞なら芥川賞・直木賞という二大巨頭が広く知られていますが、戯曲の世界ではそこまでの知名度がある賞は少ないかもしれません。
そこで今回、日本の主要な戯曲賞・演劇賞を一通り調べてまとめてみました。
※ 各賞の受賞作品データは戯曲賞・演劇賞データベースで一覧できます。
岸田國士戯曲賞 — 新人劇作家の登竜門
主催: 白水社 創設: 1955年 対象: 前年に発表された新人劇作家の戯曲
日本の戯曲賞で最も歴史が長く、最も権威があるとされるのがこの賞です。劇作家・岸田國士(きしだくにお)の功績を記念して白水社が創設しました。
「新人」といっても、厳密な年齢制限やキャリア制限はありません。ただし、傾向としては30代前後の劇作家が受賞することが多く、まさに「次代を担う劇作家」を見出す賞と言えます。
過去の受賞者には、別役実、つかこうへい、野田秀樹、鴻上尚史、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、岩松了、松尾スズキ、前川知大、本谷有希子など、後に日本演劇を代表する劇作家となった方々が名を連ねています。
受賞作は白水社から単行本として出版されるのが通例で、これが作品のアーカイブとしても重要な役割を果たしています。
鶴屋南北戯曲賞 — キャリアを問わない実力主義の賞
主催: 公益財団法人光文文化財団 創設: 1997年 対象: 年間で最も優れた戯曲
岸田國士戯曲賞が「新人向け」の性格を持つのに対し、鶴屋南北戯曲賞はキャリアを問いません。江戸時代の歌舞伎作者・四代目鶴屋南北の名を冠しているだけあって、より広い視野で「年間最高の戯曲」を選ぶ賞です。
そのため、すでに岸田賞を受賞済みのベテラン劇作家が受賞することもあり、平田オリザ、鄭義信、長塚圭史、前川知大といった錚々たる顔ぶれが並びます。
賞金は200万円で、戯曲賞としてはかなり高額です。
日本劇作家協会新人戯曲賞 — プロ・アマ不問の応募制
主催: 日本劇作家協会 創設: 1996年 対象: 応募作品の中から選考
他の多くの賞が「すでに上演・発表された作品」を対象とするのに対し、この賞は応募制です。プロ・アマチュアを問わず広く作品を募集しており、まだ無名の劇作家にもチャンスがあります。
最終選考は公開で行われ、選考委員が候補作について議論する様子を一般の方も見ることができます。この透明性の高さも特徴の一つです。
受賞者にはその後岸田國士戯曲賞を受賞する方も少なくなく、劇作家としてのキャリアの出発点となる賞と言えます。
OMS戯曲賞 — 関西演劇を支える賞
主催: 大阪ガスネットワーク 対象: 主に関西を拠点とする劇作家の作品
「OMS」は「扇町ミュージアムスクエア」の略。大阪の扇町にあった文化施設の名前に由来します。施設自体は2003年に閉館しましたが、賞はその後も継続されています。
東京に比べて注目されにくい関西の演劇シーンにおいて、この賞の存在は非常に大きいものがあります。大賞のほか佳作も選ばれ、若手の育成にも力を入れています。
読売演劇大賞 — 演劇界全体を見渡す総合賞
主催: 読売新聞社 創設: 1994年 対象: 年間の優れた演劇活動全般
読売演劇大賞は、戯曲だけでなく演出・演技なども含めた総合的な演劇賞です。大賞、最優秀作品賞、最優秀演出家賞、最優秀男優賞、最優秀女優賞、杉村春子賞など、複数の部門があります。
戯曲に限定された賞ではないため、演出家や俳優の評価も含まれますが、作品賞の受賞作には優れた戯曲が多く含まれています。
新聞社主催ということもあり、一般への知名度は比較的高い賞です。
AAF戯曲賞 — 新しい演劇表現への挑戦
主催: 愛知県芸術劇場 対象: 「戯曲」の新たな可能性を切り開く作品
AAF(Aichi Arts Foundation)戯曲賞は、愛知県芸術劇場が主催する比較的新しい戯曲賞です。従来の「戯曲」の枠にとらわれない、実験的・挑戦的な作品も積極的に評価しているのが特徴です。
受賞作はリーディング公演として上演される機会が設けられており、テキストだけでなく「上演される戯曲」としての可能性も含めて評価されます。
各賞の位置づけを整理すると
| 賞名 | 対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 岸田國士戯曲賞 | 新人寄り | 最も歴史・権威がある |
| 鶴屋南北戯曲賞 | キャリア不問 | 年間最高の戯曲を選出 |
| 劇作家協会新人戯曲賞 | 応募制 | プロ・アマ不問、公開選考 |
| OMS戯曲賞 | 関西中心 | 関西演劇シーンを支援 |
| 読売演劇大賞 | 演劇全般 | 複数部門の総合賞 |
| AAF戯曲賞 | 実験的作品 | 新しい表現への挑戦 |
脚本を選ぶときに「この作品は何か賞を取っているか」を気にする方は多いと思います。ただ、賞を取っていない優れた作品もたくさんありますし、逆に賞を取っていても自分の劇団に合うかどうかは別の話です。
あくまで一つの参考情報として、戯曲選びに活用していただければ幸いです。
※ 各賞の受賞作品データは戯曲賞・演劇賞データベースでまとめて閲覧できます。当サイトに掲載されている戯曲に限りますが、作品ページへのリンクや作家情報と合わせて確認できます。
Written by
戯曲図書館 編集部
演劇経験者が運営する戯曲検索サービス「戯曲図書館」の編集チームです。 脚本選びのノウハウ、演劇業界の最新情報、公演レポートなどを発信しています。
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