一人芝居・モノローグの始め方完全ガイド【脚本選び・演出・練習法】
2026-02-18
一人芝居とは?その魅力と可能性
一人芝居(ワンマンショー・ソロパフォーマンス)は、たった一人の俳優が舞台上で物語を語り、演じきる演劇形式です。モノローグとも呼ばれますが、厳密にいえば「モノローグ」は一人語りの台詞形式を指し、「一人芝居」はそのモノローグを中心に構成された演劇作品全体を指します。
なぜ今、一人芝居が注目されているのか
近年、一人芝居はますます注目を集めています。その理由はいくつかあります。
- 会場を選ばない: カフェ、ギャラリー、小劇場、路上。極端に言えば畳一枚のスペースがあれば公演できる
- 制作コストが低い: 出演者は自分一人。スケジュール調整も自分次第
- SNS時代との相性: 短時間の一人芝居はYouTubeやTikTokでもシェアしやすい
- コロナ禍以降の変化: 密を避ける演劇形式として見直された
- 演技力の証明: 一人で舞台を持たせる実力が問われるため、俳優としての評価に直結する
プロの世界でも、イッセー尾形さんの即興一人芝居、白石加代子さんの「百物語」シリーズ、柄本明さんのソロ公演など、日本を代表する俳優たちが一人芝居に取り組んでいます。
一人芝居の種類を知ろう
一口に「一人芝居」と言っても、実はさまざまなスタイルがあります。自分がやりたい方向性を明確にすることが、作品選びの第一歩です。
1. 物語型モノローグ
一つのストーリーを最初から最後まで語り演じるタイプ。登場人物は一人(あるいは語り手が複数の役を演じ分ける)で、起承転結のある物語構造を持ちます。
特徴:
- 脚本がしっかり書かれていることが多い
- 演技力に加え、物語の構成力が問われる
- 観客を「物語の世界」に引き込む力が重要
例: 一人の女性が過去の恋愛を語りながら、当時の自分と現在の自分を行き来する作品
2. キャラクター演じ分け型
一人で複数の人物を演じ分けるスタイル。声色、体の向き、立ち位置の変化で「今、誰が話しているか」を表現します。
特徴:
- 高い演技力と切り替えの技術が必要
- 観客にとってはパズルのような面白さがある
- イッセー尾形さんのスタイルが代表的
例: 家族会議の場面を、父・母・子ども・祖母の4役を一人で演じ分ける
3. 詩的・抽象型モノローグ
明確なストーリーよりも、言葉のリズムやイメージで空間を作るタイプ。現代詩や散文詩に近い表現です。
特徴:
- 言葉の選び方やリズムが重要
- 身体表現との組み合わせが多い
- アート寄りの演劇フェスティバルで見かけることが多い
4. コメディ一人芝居
笑いを主体としたソロパフォーマンス。スタンダップコメディとの境界線が曖昧な場合もありますが、「キャラクター」や「物語」がある点が違いです。
特徴:
- 客席との距離が近い会場が適している
- テンポとタイミングが命
- アドリブ力も問われる
5. ドキュメンタリー型
実在の人物や実際の出来事をもとにした一人芝居。自伝的な作品もこのカテゴリに含まれます。
特徴:
- リサーチと取材が作品の質を左右する
- 「事実」が持つ重みが観客に響く
- 社会問題をテーマにした作品も多い
一人芝居の脚本の選び方
自分に合った脚本を見つける5つのポイント
1. 上演時間で選ぶ
一人芝居は集中力が命です。初めて挑戦するなら、15〜30分の短編から始めることをおすすめします。
| レベル | 上演時間 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 初心者 | 5〜15分 | ワークショップ、練習発表 |
| 中級者 | 15〜30分 | 小規模公演、演劇祭 |
| 上級者 | 30〜60分 | 本公演、フェスティバル |
| ベテラン | 60分以上 | 単独公演、ツアー |
戯曲図書館では上演時間で脚本を検索できるので、「1人」「短編」で絞り込んでみてください。
2. 自分の強みに合わせる
一人芝居は「ごまかしが効かない」演劇形式です。自分の強みを活かせる作品を選びましょう。
- 声に自信がある → 詩的モノローグ、朗読劇寄りの作品
- 身体表現が得意 → マイム要素のある作品、動きの多い脚本
- コメディが好き → コメディ一人芝居、日常系の作品
- 感情表現に自信 → シリアスなドラマ、告白系モノローグ
- 演じ分けが得意 → 複数キャラクター型の作品
3. 観客を想定して選ぶ
誰に見せるかで、適した作品は変わります。
- 演劇関係者向け: 実験的・技巧的な作品が評価されやすい
- 一般のお客様向け: 物語がわかりやすく感情移入しやすい作品
- 学校行事: 暴力・性的表現がなく、テーマが普遍的な作品
- コンクール: 審査基準を確認し、規定時間内に収まる作品
4. 上演権を確認する
既存の脚本を上演する場合、必ず上演許可を取りましょう。一人芝居は作家と俳優の距離が近いジャンルなので、直接やり取りできることも多いです。
上演許可の詳しい取り方は「演劇の上演許可の取り方完全ガイド」をご参照ください。
5. 「自分で書く」という選択肢
実は、一人芝居は自作脚本に最も適した演劇形式です。理由は以下の通り。
- 自分の言葉で語れるので、台詞が体に馴染みやすい
- 自分だけの体験やエピソードを素材にできる
- 稽古しながら脚本を修正できる柔軟性がある
脚本の書き方については「脚本・台本の書き方入門ガイド」で基礎から解説しています。
一人芝居の演出テクニック
一人で舞台を持たせるには、演出の工夫が不可欠です。以下に、実践的なテクニックを紹介します。
空間の使い方
ステージング(立ち位置と動線)
一人芝居では、自分の立ち位置が「場面」を表現します。
- 上手(客席から見て右)と下手(左)で場所を分ける: 例えば上手が「現在」、下手が「過去」
- 前後で時間軸を表現: 前に出ると「今ここ」、後ろに下がると「回想」
- 対角線の動き: 感情の変化を空間の移動で表現
椅子一脚の魔法
一人芝居でよく使われる小道具が「椅子」です。
- 座る → 日常的な場面、落ち着いた語り
- 立ち上がる → 感情の高まり、決意
- 椅子を回す → 場面転換
- 椅子に語りかける → 不在の人物との対話
- 椅子の上に立つ → 権威、支配、叫び
たった一脚の椅子が、一人芝居の舞台を何倍にも広げてくれます。
照明と音響
小規模な公演でも、照明と音響は一人芝居の効果を大きく高めます。
照明の基本:
- スポットライト一灯でも、「明るい=現在」「暗い=過去」の切り替えが可能
- 横からの光は影を作り、心理的な深みを演出する
- ブラックアウト(暗転)は場面転換に効果的だが、多用しすぎると流れが切れる
音響の活用:
- BGMは使いすぎない。沈黙の力を活かす
- 効果音は「空間を広げる」目的で使う(雨の音、電話の着信音など)
- 開演前と終演後の音楽で、作品の世界観を伝える
観客との関係
一人芝居ならではの強みが、観客との直接的なコミュニケーションです。
- 第四の壁を破る: 客席に語りかけることで、観客を物語に巻き込む
- アイコンタクト: 特定の観客と目を合わせることで、「今、自分に話している」と感じさせる
- 沈黙の共有: 言葉を止めて客席を見つめる。この「間」が一人芝居の最大の武器
ただし、観客参加型にするかどうかは作品の方向性次第です。すべての一人芝居で客席に話しかける必要はありません。
一人芝居の練習方法
基礎トレーニング
1. 発声・滑舌練習
一人芝居では、声がすべてを伝える道具です。毎日の基礎練習を欠かさないようにしましょう。
おすすめメニュー(1日15分):
- 腹式呼吸(5分): 仰向けに寝て、お腹に手を当てて呼吸する
- 母音の発声(3分): 「あえいうえおあお」を明瞭に、ゆっくりから速く
- 早口言葉(3分): 「生麦生米生卵」「東京特許許可局」など
- 台詞の音読(4分): 今取り組んでいる脚本の一部を声に出して読む
2. 身体表現の練習
声だけでなく、体も重要な表現手段です。
- 鏡の前でのエチュード: 感情(喜怒哀楽)を言葉なしで体だけで表現する
- 歩き方の変化: 年齢、性別、感情によって歩き方を変える練習
- ニュートラルポジション: 何も演じていない「ゼロ」の状態を作る練習。ここから演技が始まる
3. 感情の引き出し練習
一人芝居では、感情の切り替えが頻繁に求められます。
- 感情のスケール: 同じ台詞を「怒り1→10」のように段階的に強度を変えて言う
- 感情のスイッチ: 「笑い」から「泣き」へ3秒で切り替える練習
- 感情の記憶: 自分が実際に体験した感情を思い出し、その感覚を演技に使う
脚本の稽古法
ステップ1: テーブルワーク(1〜2週目)
まずは座って、脚本を深く理解する段階です。
- 通し読み: 脚本を最初から最後まで声に出して読む(最低3回)
- キャラクター分析: この人物は誰か? 何を望んでいるか? 何が怖いか?
- 構造の把握: 起承転結はどこか? クライマックスはどこか?
- 言葉の意味を掘る: 一つひとつの台詞が「なぜこの言葉なのか」を考える
ステップ2: 立ち稽古(3〜4週目)
体を使って演じ始める段階です。
- 動線を決める: どこで立ち、どこで座り、どこで歩くか
- 台詞と動きの連動: 言葉と体の動きがバラバラにならないように
- 台本を手放す: この段階で台詞を覚えきることを目指す
- 録画して確認: スマホで撮影し、客観的に自分の演技を見る
ステップ3: 通し稽古(5週目〜)
本番を想定した練習です。
- 通し稽古: 最初から最後まで止めずに演じる
- 時間を計る: 上演時間が目標に収まっているか確認
- 観客を入れる: 友人や家族に見てもらい、感想をもらう
- ゲネプロ: 本番と同じ条件(衣装・照明・音響)でのリハーサル
一人芝居におすすめの題材・テーマ
一人芝居に向いている題材には、いくつかの共通点があります。
「語りたい衝動」があるテーマ
一人芝居の核は「この人物がなぜ今、ここで、語らなければならないのか」という切迫感です。以下のようなシチュエーションは一人芝居に向いています。
- 告白: 誰かに言えなかったことを打ち明ける
- 回想: 人生の転機を振り返る
- 待っている時間: 誰かを待ちながら語る(ベケットの「ゴドーを待ちながら」の変奏)
- 手紙を読む/書く: 宛先のある言葉は一人語りに自然なフレームを与える
- 電話: 相手の声が聞こえないことで、一人芝居でありながら「対話」が生まれる
日本の名作一人芝居から学ぶ
一人芝居に挑戦する前に、名作を観ることをおすすめします。
- イッセー尾形: 日本一人芝居の第一人者。日常の中のおかしさを鋭く切り取る
- 白石加代子「百物語」: 文学作品を一人で語り演じるシリーズ。言葉の力を体感できる
- 柄本明: 落語的な語りと演劇を融合させた独自のソロスタイル
- 中村勘三郎「鏡獅子」: 歌舞伎における究極の一人芝居
- 坂手洋二の作品群: 社会性のある一人芝居の脚本で知られる
一人芝居を上演する場所
小劇場
東京なら下北沢、池袋、新宿エリアに一人芝居に適した小劇場が多数あります。客席数30〜100程度の空間が、一人芝居には最適です。
全国の小劇場情報は「全国の小劇場一覧」にまとめています。
カフェ・バー
飲食スペースを使った公演は、一人芝居との相性が抜群です。
- 観客との距離が近い
- 飲み物を飲みながらリラックスして観られる
- 会場費が劇場より安いことが多い
オンライン配信
Zoomやツイキャス、YouTubeライブを使ったオンライン一人芝居も定着しつつあります。
- カメラのフレーミングを活かした演出が可能
- 字幕や画面効果との組み合わせ
- 海外の観客にもリーチできる
一人芝居でよくある失敗と対策
失敗1: 「ずっと同じテンション」
問題: 最初から最後まで同じ声量・同じテンポで、観客が飽きる
対策: 「波」を意識する。静かな場面→盛り上がり→沈黙→爆発、というように感情のダイナミクスをつける。楽譜でいえば、ピアノ(弱く)とフォルテ(強く)の差を大きくする。
失敗2: 「客席が見えなくなる」
問題: 緊張で自分の世界に入り込み、観客の存在を忘れる
対策: リハーサルの段階で、客席に向かって語る瞬間を意識的に作る。台詞の中で「ここは観客を見る」というポイントを決めておく。
失敗3: 「場面転換が唐突」
問題: 時間や場所が変わるタイミングが観客に伝わらない
対策: 転換のサイン(身体的なリセット、照明の変化、沈黙、音響)を明確にする。一人芝居では、自分の体の動きだけが「場面が変わった」ことを伝える手段になることが多い。
失敗4: 「台詞が飛ぶ」
問題: 一人芝居は相手がいないため、台詞が飛んだときにフォローしてくれる人がいない
対策:
- 台詞を「意味のかたまり」で覚える(一字一句ではなく、感情の流れで記憶する)
- 「ここで詰まったらこう繋ぐ」というセーフティネットを用意する
- 本番では、詰まっても「沈黙」として演技に組み込む勇気を持つ
失敗5: 「動きすぎる」
問題: 不安から舞台上を歩き回り、観客の目が定まらない
対策: 「動かない」ことの力を知る。立ち止まって語る瞬間こそ、最も強い印象を残す。動くときは「なぜ動くのか」に理由をつける。
一人芝居の脚本を探すなら
一人芝居に挑戦したくなったら、まずは脚本探しから始めましょう。
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また、以下の記事も参考になります。
- 短編戯曲(30分以内)の魅力と上演のコツ: 初挑戦なら短編から
- 二人芝居のおすすめ作品と選び方: もう一人加えるなら
- 朗読劇の始め方と台本の選び方ガイド: 声の表現を深めたいなら
- 脚本・台本の書き方入門ガイド: 自分で一人芝居を書くなら
まとめ
一人芝居は、演劇の原点ともいえる表現形式です。一人で舞台に立つことは怖いかもしれません。しかし、その「怖さ」を超えた先にある、自分の声と体だけで観客の心を動かす体験は、何ものにも代えがたいものです。
まずは短いモノローグから始めてみてください。鏡の前で、友人の前で、カフェの片隅で。一人芝居の世界は、思っているよりずっと広く、自由で、あなたを待っています。
