現代口語演劇とは?|平田オリザが提唱した「静かな演劇」の系譜と特徴

2026-02-08

演劇知識現代口語演劇平田オリザ戯曲の書き方演劇史

現代口語演劇とは

現代口語演劇(げんだいこうごえんげき)とは、日常会話で使われるリアルな話し言葉(口語)をそのまま戯曲のセリフに用いる演劇の手法・スタイルのことです。

1990年代に劇作家・演出家の平田オリザが青年団での活動を通じて理論化・実践し、日本の現代演劇に大きな変革をもたらしました。

従来の演劇が「舞台上の特別な言葉」でセリフを構成していたのに対し、現代口語演劇では、私たちが日常で交わすような何気ない会話、言いよどみ、沈黙、同時多発的な会話をそのまま舞台に乗せます。


「静かな演劇」との関係

現代口語演劇は、1990年代に演劇評論家から「静かな演劇」と呼ばれたムーブメントと深く結びついています。

1980年代の小劇場演劇が、大声で叫んだり激しく身体を動かしたりする「熱い」表現を特徴としていたのに対し、1990年代に登場した一群の劇作家たちは、静かな日常の風景を淡々と描きました。

「静かな演劇」の代表的な劇作家

| 劇作家 | 劇団 | 特徴 | |--------|------|------| | 平田オリザ | 青年団 | 現代口語演劇の理論的支柱。「同時多発会話」の技法 | | 岩松了 | 東京乾電池 出身 | 日常会話の中に潜む緊張感を描く | | 宮沢章夫 | 遊園地再生事業団 | ポップカルチャーと日常のズレを描く | | 松田正隆 | 時についての九つの論 | 九州の風土を背景にした静謐な会話劇 |


現代口語演劇の特徴

1. 日常会話のリアリズム

従来の演劇では、観客に伝わるようにセリフを明瞭に、一人ずつ順番に話すのが基本でした。しかし現実の会話では、人は同時に話し、言葉を途中で切り、曖昧な表現を使います。

現代口語演劇では、こうした日常会話のリアルな構造をそのまま戯曲に反映させます。

例:従来の演劇のセリフ

A「私は明日、東京に行くことにしたの」 B「そうなの。気をつけてね」

例:現代口語演劇のセリフ

A「あの、明日なんだけど」 B「うん」 A「東京……行こうかなって」 B「え、あ、そう」 A「うん」 B「……気をつけてね」

2. 同時多発会話

平田オリザが特に重視した技法が「同時多発会話」です。舞台上の複数のグループが、同時にそれぞれ別の会話を行います。

観客は、まるで実際の空間にいるかのように、複数の会話の断片を聞き取ることになります。これにより、舞台上にリアルな「場」の空気が生まれます。

3. ドラマチックな展開の排除

大きな事件やドラマチックな展開を意図的に排除し、何気ない日常の一コマを切り取ります。観客は、登場人物たちの些細な会話の中から、その関係性や感情の機微を読み取ります。

4. セリフの「間」と「沈黙」

言葉と言葉の間にある沈黙や**間(ま)**を重要視します。何を言うかだけでなく、「何を言わないか」も表現の一部として扱います。


現代口語演劇が生まれた背景

1980年代の小劇場ブーム

1960年代〜80年代の日本演劇は、アングラ演劇小劇場ブームの時代でした。野田秀樹、鴻上尚史、第三舞台などに代表されるように、言葉遊びや身体表現を駆使した「熱い」演劇が主流でした。

1990年代の転換

バブル崩壊後の1990年代、演劇界にも静かな変化が訪れます。社会全体の空気が変わる中で、大声で何かを主張するのではなく、日常の中にある微細な感情や関係性を丁寧に描く作品が注目されるようになりました。

平田オリザは1995年に著書『現代口語演劇のために』を発表し、この新しい演劇の方法論を理論的に整理しました。


現代口語演劇の影響を受けた劇作家たち

平田オリザ以降、現代口語演劇の影響は日本演劇界に広く浸透しています。

  • 三浦大輔(ポツドール)— 過激なリアリズムで日常の暴力性を描く
  • 前川知大(イキウメ)— 口語体をベースにSF的設定を組み合わせる
  • 藤田貴大(マームとジプシー)— 口語のリフレインと身体表現を融合
  • 岡田利規(チェルフィッチュ)— 口語体をさらに解体し、新たな身体言語を模索
  • 柴幸男 — 日常会話のリズムを活かした独自の時間表現

戯曲を書く人にとっての現代口語演劇

戯曲を書きたいと考えている人にとって、現代口語演劇の技法は非常に参考になります。

実践のポイント

  1. 実際の会話を観察する — カフェや電車で聞こえてくる会話をメモしてみましょう。人がどのように話し、言葉を選び、沈黙するかを観察することが出発点です

  2. 「伝わらなさ」を恐れない — 日常会話では、言いたいことがうまく伝わらないことの方が多いです。その「伝わらなさ」こそがリアリティを生みます

  3. ト書きで「間」を書く — セリフだけでなく、沈黙や動作の「間」を丁寧にト書きに記すことで、口語演劇の空気感が生まれます

  4. 同時多発会話に挑戦する — 複数の会話を並行して書くのは難しいですが、場の空気をリアルに描く強力な手法です


まとめ

現代口語演劇は、日本演劇の表現を大きく広げた重要なムーブメントです。「特別な言葉」ではなく「日常の言葉」で人間を描くこのアプローチは、今も多くの劇作家に影響を与え続けています。

戯曲図書館では、さまざまなスタイルの戯曲を掲載しています。現代口語演劇の作品にも触れながら、あなた自身の表現を見つけてみてください。


この記事は戯曲図書館編集部が執筆しました。内容に関するご意見・ご感想はお問い合わせページからお寄せください。