舞台はマレーシアの保養所。そこには定年退職した老夫婦や、仕事に都合で住み着いた人たちがのんびりと暮らしている。だが、物語が進むにつれて様々な思いが明らかになっていく。そんなそれぞれの人間が抱える複雑な人間模様がロビーという空間で繰り広げられていく。
保養所という設定ですが、舞台はロビーしかありません。その中で登場人物が現れて、思い思いに会話をすることによって物語が進んでいきます。登場人物が多いので、序盤は誰が誰なのかがわからなくなりがちですが、後半になると次第にわかってきます。大きな事件もなく淡々としていますが、それが海外の保養所というのんびりとした空気に合っています。そして日常の会話の中で見え隠れする、個人に対する恨み言や、日本に対する複雑な思い、親子愛などが語られます。他の登場人物は席を外しているのでそれを知ることはできません。ただ、読者だけが神の視点ですべての会話を聞くことが出来ます。そのため、読んでいながら噂話を盗み聞きしているような、妙な罪悪感とワクワク感があります。ですが逆にそれ以外の場所で行われている行為については、登場人物の会話のみでしか出てこないので、読者が見ていないところで何が行われているかはわかりません。そのため、その部分をどう想像するかでも、この物語の見え方は違ってくると思います。また、一人一人のキャラクターに焦点を当てて読んでみても面白いかもしれません。そういった様々な目線で読むことのできる、奥の深い作品だと思います。
平田 オリザ(ひらた おりざ)さんは、東京都出身の劇作家、演出家で、劇団「青年団」を主宰し、芸術文化観光専門職大学の初代学長を務めています。1962年11月8日生まれで、国際基督教大学教養学部を卒業しました。現代口語演劇理論の提唱者として、日本の演劇界に大きな影響を与えています。
平田さんは、16歳で高校を休学し、自転車で世界一周旅行を経験しました。大学在学中の1983年に劇団「青年団」を結成し、劇作家・演出家としての活動を開始しました。1995年には『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞を受賞し、その後も数々の作品を発表しています。また、演劇的手法を用いたコミュニケーション教育にも取り組み、2021年には芸術文化観光専門職大学の初代学長に就任しました。
平田さんの作品は、日常の会話を重視した「現代口語演劇理論」に基づき、静かな演劇として知られています。
平田さんは、その革新的な演劇手法と作品で多くの賞を受賞しています。
平田さんは、演劇だけでなく、教育や地域振興にも積極的に関わっています。演劇的手法を用いたコミュニケーション教育を推進し、大学での教鞭や地域の文化政策にも携わっています。
(2025年3月現在)