2019年の四月三十日。この日は哲郎にとって大切な日だった。今から44年前に同じアパートで暮らしていた真紀とベトナムの留学生ラムと再会すると約束したのである。その日はサイゴン陥落の日であり、ラムはカナダに逃れるために二人の前から去っていた。そして現在、哲朗と真紀は当時のことを振り返りながら再開する。二人はラムが来るのかどうか不安と期待が入り混じった気持ちで待ち続ける。
44年前に再会を誓った友人たちの物語です。同じ大学生の哲朗、真紀、そしてベトナム人留学生のラム。彼らは同じアパートで青春を過ごしますが、その三人のやり取りはとても微笑ましいです。ですが、ベトナム戦争の暗い影がラムを襲い、彼らの青春の物語は終わりを告げます。そしてラムは生き残るために日本から離れるという選択をします。真紀に対する気持ちや、哲朗に対する友情と複雑な気持ち。それらの葛藤を胸に44年後に再会を誓うというのはドラマチックです。 ですが、日本に残った二人もこじれます。真紀の気持ちに気づいていながらそれを無視する哲朗の優柔不断にはあきれてしまいます。そして一度の誤りで真紀の人生は大きく狂ってしまうのですが、それがとても残酷です。誰が悪いということは無く、ただ青春の落とし穴といったことでしょう。そして当時の価値観がいかに冷たい物であったのかもよくわかります。また、その後の結末によって戦争というモノがいかに多くの人の人生を狂わせるのか、そして終わったのちもその影響がいかに強く残り続けるのか。そんなことを考えさせられる物語です。