ある夜、泥酔した岡崎幸一が帰宅すると、 「あんたを待ってた」と知らない女性に出迎えられる。 電気を灯ければ、そこには23年前に心不全で死んだはずの母アサミがいた。 嘘だ、ありえない、と思っても目の前にその女性はいる。 会話をするうちに自分か母しか知り得ない情報も出て、 否定することが出来なくなってくる。 アサミから、今までどのように生きて来たのかと聞かれ、 12歳からの自分の人生を語るうちに……。
大人になってすっかり落ち着いてしまった幸一と、 23年前に亡くなった時と変わらないアサミ。 幸一からすればそれはそれは不信感が強いでしょうけれども、 明るいアサミが会話を通して緊張をほぐしてくれます。 母子なのに見た目の年齢は同じという不思議なギャップも、 二人の会話を彩っているようにも感じました。 幸一の人生は、一般的なものとはとても言えません。 シングルマザーであるアサミが亡くなり、親戚の家に引き取られ育ち、 ラグビー選手として花園でも実業団でも一定の結果を残します。 普通と比べて一回りは大きく成功している人物と言えるでしょう。 しかし、彼は自らの人生を全く評価していません。 一凡人の私としては驚きました。 幸一が何故そこまでのネガティブ思考になってしまったのか、 また、どんな問題に直面しているのか。 テンポよく語られる彼の人生と、少しずつ明らかになっていく事実に、 寂しさを覚え、胸が躍り、ハラハラもしました。 少し重いテーマでしたが、心強いアサミの存在のおかげで 安心して物語を追うことが出来た様に思います。 「水平線の歩き方」で得られる教訓は、 幸一の人生にのみ適用されるものではありません。 ご自身の人生と照らし合わせ、比べながら、 彼の言葉に耳を傾けてください。 クライマックスを見届けた時、心に残る物があるはずと思います。
成井豊(なるい ゆたか)さんは、日本の劇作家、演出家で、劇団「キャラメルボックス」の創設者として知られています。1959年生まれ、東京都出身で、早稲田大学第一文学部演劇科を卒業されています。1985年に「キャラメルボックス」を旗揚げし、以来、多くの作品の脚本・演出を手掛けてこられました。
成井さんは、早稲田大学在学中に演劇活動を開始し、1985年に劇団「キャラメルボックス」を結成されました。劇団は、ファンタジーやSF要素を取り入れた作品で人気を博し、日本の演劇界に新風を吹き込んできました。成井さんは、劇団の全作品の脚本・演出を担当し、その独特の世界観と感動的な物語で多くの観客を魅了してきました。
成井さんの作品は、心温まるストーリーと個性的なキャラクターが特徴です。以下に主な作品を挙げます。
成井さんは、その創造性と演劇界への貢献が評価され、以下の賞を受賞されています。
成井さんは、劇団の活動以外にも、他劇団や商業演劇の脚本・演出を手掛けるなど、幅広く活躍されています。また、演劇に関する著書も執筆されており、その経験と知識を後進に伝えています。
(2025年3月現在)