舞台は大正の中頃、新潟県の産婦人科。そこでは医師の荻野久作が診療をしていた。毎日来る患者を前に、久作は忙しい毎日を送る。そんな彼には一つの夢があった。それは世界でもまだ解明されていない、排卵の時期を特定する研究である。そのために日々数多くの患者と向き合いながらも、夜遅くまで研究に没頭していた。だが、その道のりは非常の険しかった。
この作品の主人公である萩野久作は、いかにも学者といった感じです。少し浮世離れしている部分もあり、そのせいで勘違いを起こしたり、人とぶつかったりします。久作以外にも彼を尊敬する学生の半三郎や、フェミニストのより子に、世話焼きのキヨなどそれぞれ個性的です。そしてそれぞれの人物が、色々な過去や考えを持ちながらも久作の背中を押そうとする姿は、とても美しく感じます。 久作は排卵のタイミングを特定するための研究を行っていますが、その研究が果たして女性のためになるのかという疑問が彼に投げかけられます。彼はその問いに苦難をしながらも、自分なりの答えを見つけ出します。そういった久作の苦難する姿というのは、とても共感ができました。答えのない問題に立ち向かっていくことに対する厳しさを感じます。他の登場人物たちもぶつかり合いながら、自分の道を見つけていきます。そして最後にはそれぞれの道を行くのですが、この読後感はとても爽快です。ぜひ一度読んで欲しい作品です。