劇作家の野川哲太は夏に婚約者の順子を連れて、実家に帰省した。哲太は父の幸太郎と喧嘩して家を飛び出したので気まずかった。しかし妹の洋子が仲裁に入り、父と対面する。ぎこちない会話の中で、哲太が戦争に関するシナリオを書くと聞いた幸太郎は、おもむろに自身の戦争体験を語り始める。そして次第に父の過去が明らかになっていく。
この作品では父の回想を通して、戦争の様子が語られます。少年兵として東京から八戸に向かう汽車の中で出会った金坂との出会いが語られます。少年兵同士の会話なのでどこか純粋で胸が暖かくなります。国のために戦う覚悟を決めている幸太郎と、志願したのに死にたくないと泣きまくる金坂の対比は面白いです。また、回想の中でうっかり余計なことをしゃべってしまい、哲太に突っ込まれる幸太郎の姿はとても微笑ましいです。最初は気難しい頑固おやじという雰囲気だったので、そのギャップがいいです。そして戦争が終わり、帰りの汽車で金坂と再会します。行きとは違う空気の中で会話が進みます。そしてのちに幸太郎の妻となる女性との出会いが描かれますが、それがとても美しいです。戦時中から終戦という暗い時代ですが、この作品ではそれは描かれていません。それが子供のころの夏を振り返るような明るさと懐かしさを持っています。最後に話が終わり幸太郎を残してみんな花火を見に行きます。親子はそこまで言葉を交わしませんが、それでもわだかまりが消えたことがわかります。そういった微妙な人間の心の動きを描いた作品であると思います。
高橋 いさを(たかはし いさを)さんは、東京都青梅市出身の劇作家・演出家です。1961年9月7日生まれで、日本大学芸術学部演劇学科在学中に「劇団ショーマ」を結成し、長年にわたり劇作と演出を手掛けてきました。2018年に劇団を解散後は、個人ユニット「ISAWO BOOKSTORE」を立ち上げ、現在も精力的に活動されています。
高橋さんは、日本大学芸術学部在学中の1982年に「劇団ショーマ」を旗揚げし、社会風刺や人間ドラマを描いた作品で注目を集めました。1984年には『ボクサァ』で池袋シアターグリーン・フェスティバル特別審査委員賞を受賞するなど、早くからその才能を認められています。2018年に劇団を解散した後は、個人ユニット「ISAWO BOOKSTORE」で昭和の実際の事件をテーマにした作品を発表しています。
高橋さんの作品は、鋭い社会風刺とユーモア、そして人間の内面を描く力強いドラマが特徴です。以下は代表的な作品です。
高橋さんは、多くの賞を受賞し、その脚本力と演出力は高く評価されています。
高橋さんは、演劇活動の傍ら、日本大学芸術学部やワタナベエンターテイメントカレッジで講師を務め、後進の育成にも力を入れています。また、映画や演劇に関する評論やエッセイの執筆も行っています。
(2025年3月現在)