時は戦前から戦後にかけての日本。市田房子は友人たちと短歌の会で歌を詠みながら過ごしていた。だが、聡明な彼女にはどうしても男たちの言うことに抵抗を感じていた。そして、戦争という大きな渦に飲まれながらも、その思いはやがて婦人解放運動へと繋がっていく。
実在した婦人運動家である市川房枝をモデルにした物語です。彼女以外にも当時活躍していた、作家や学者が登場します。序盤ではみんな仲良く短歌を作って楽しんでいるのですが、房子だけはあまりうまくできません。私も短歌については全くの素人ですが、それでもまずい歌であるということは分かります。それは時間が流れても変わることはありません。作中では女性の権利を訴えるあまり、少々とっつきにくいイメージがありますが、短歌が下手という描写のおかげでとても人間臭さが出ていていいです。 それ以外にも作中では様々な議論が交わされます。特高や戦争に負けずに戦うその姿はとても勇気をもらえます。そしてどういった経緯で権利を勝ち取っていったのかが時にコミカルな描写を交えて鮮明に描かれているので、とても読みやすいです。物語の中で今が時代の変わり目だというセリフがありました。2023年の現在、コロナという時代を超えて時代が変わりつつあるということを感じます。世界中で多様化が叫ばれ、ネットの情報が世界を覆っています。この先の未来をどう生きていけばいいのか。そんなことを考えさせられる作品であると思いました。