夫を亡くし二匹飼い始めた佐藤よし子。一見すると悠々自適に余生を送っているように見える彼女だが、心の中には複雑な思いが絡み合っていた。その中でも特に大きいのは、夫の義男が自殺したのではないかという疑念である。よし子はその思いを必死にかき消そうとするが、娘のとも美は遺書を発見する。よし子は聞きたくないと現実逃避するが、息子のけん太は読み上げる。それを聞いて安心するよし子だったが、真実は違っていた。
この物語の中心人物であるよし子は、かなり性格に問題がある人物であると言えます。古い価値観のまま息子の夢を否定し、娘のやる気をそぐようなことを平気で言います。さらに家政婦できている南条に対しても余計なことを言います。そして自分が不利になるとヒステリックを起こし、自分が世界で一番不幸であるかのような言葉を吐きます。この物語はあくまでフィクションなのですが、現実にいてもおかしくないような生々しさがあります。そのような性格だから、友人もおらず猫を飼うことで孤独を紛らわせています。猫は章ごとに語り手となって、これまで起きたことをよし子の代わりに演技します。その中で、夫の死の真相が垣間見えるシーンがあるのですが、肝心のよし子は気づいていないようです。このように人間の心の地雷を、いともたやすく踏み抜くよし子ですが、私は読んでいて苛立ちを感じながらも、どこか共感できる部分もありました。彼女は、必死に子供を育てる大変さや、お金を稼ぐことの難しさ、夢を追いかけることへの限界をヒステリックにまくしたてますが、決して間違ってはいないからです。ただ、言葉選びと、他人との向き合い方に問題があると思いました。自分の身になったとき、果たして自分はしっかり人と向き合えているのだろうかと、身につまされました。そういった意味でも、非常に現実的な物語であると言えます。