茅ヶ崎は亡くなった妻が最後に買って来たリンゴの味を忘れられずにいた。そしてその味を再現すべく、東北に農園を作るが事業は失敗。閑散とした工場の中で迫る借金の返済期限にあえぐ。だが、組合との構想に巻き込まれたことにより事態は急変。さらに行方不明だった従業員がトラックで工場に突っ込む。そのトラックに乗せられていた積荷のせいで事態はさらにカオスを極めていく。
登場人物全員がろくでなしです。ろくでもない人が借金に追われて後がなくなるので、当然まともなことは考えません。意味不明な現実逃避をしたり、障害のある少女に内臓を売れと迫ったり、人質を取って組合から金を取ろうとしたり、けが人を手当てせず産業廃棄物と一緒に捨てようとします。ですが、不快感は全くありません。とのキャラクターもギラギラとした泥臭いエネルギーに溢れています。そのため、むしろ不思議な爽快感を感じます。 ですが物語自体はカオスそのものです。特に中盤、行方不明になっていた従業員、前田弟がトラックで工場に突っ込んできます。そのあたりからまるで風邪を引いたときに見る悪夢のような展開になります。あっちで事件がおき、こっちでも事件が起きる。その目まぐるしい展開に読んでいる私もすっかり飲み込まれてしまいました。とにかく無茶苦茶ですが、それが読んでいて癖になっていきます。 そして、そんな物語が繰り広げられていくうちに、茅ヶ崎がなぜひどい味のリンゴを求めるのかがわかってきます。そしてそれに至る過程での事件の真実も明らかになります。それが分かったとき、悪夢は終わりそして物語も終わります。最後の茅ヶ崎の「許す!!!」というセリフは、夢から覚めたときの安心感を得られました。 とにかく最後まで怒涛の展開が続きますが、そのぶん読後感はとても素晴らしいです。戯曲として読むだけでなく、実際の舞台も見てみたくなるような作品です。
第13回読売演劇大賞優秀作品賞や第14回読売演劇大賞優秀演出家受賞など演出家としても劇作家としても数々の賞を手にしつつも、俳優としても映画などに出演し高崎映画祭新人男優賞を受賞。 現在はKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督を務めている(2023年現在)。